新型コロナで廃業、新たな道を模索する経営者たち
新型コロナウイルスによる感染症が広がりはじめたころ、航空会社は多くの路線で減便に踏み切り、従業員は自宅待機を余儀なくされた。客室乗務員に短期間滞在するための住居を斡旋するサービスを提供していたマイク・カターニア氏は、その需要がほぼ失われると直感した。
カターニア氏が仲間と共同で創設した「Padloop(パドループ)」は創業後1年足らずで、2020年3月上旬に廃業した。コロナ禍において生活はどのように変化したのかを考えた挙句、カターニア氏は次のビジネスへつながるアイディアにたどり着いた。『Locaris(ロカリス)』というウェブサイトは、入居する賃貸アパートを探す人と物件の近隣に住む人をつなげ、建物や家主の情報を引き出すためのシステムだ。人々が直接会うことに制限が課せられるコロナ禍でも、入居希望者はロカリスを通じて物件の安全性についての実態を知ることができる。
ネバダ州ヘンダーソンに住む同氏は、「新型コロナウイルスがきっかけとなるようなものは何か。予定より数年早く市場に出てきている流行には何があるか。このようなことに重点を置いて考えました」と話す。ロカリスは2020年6月に公開され、早くも成功を得ている。
廃業を余儀なくされた経営者は、次にすべきことを考える必要に迫られる。カターニア氏のような起業家にとってその答えとは、次の流行を予測すること、そしてその流行に乗るための会社を作ることである。それまでの事業内容と類似したビジネスをはじめる経営者もいれば、同じ業界ではあるものの職種の異なる会社を創業する経営者もいる。また、廃止した事業をいつか再開させる希望を胸に、就職した人もいる。
コロナ禍で廃業した小企業の数については知られていないが、壊滅的な影響を受けていることはどの統計をみても明らかである。2020年春に全米経済研究所(NBER)は、何十万社にも及ぶ企業が廃業すると予測している。勤怠管理システムメーカー「UKG」からのデータは、新型ウイルス感染拡大がはじまって以降、小企業の6社中1社程度が休業していると示す。さらに、業界団体の全米レストラン協会(NRA)は、全体の17%に相当する11万軒以上のレストランが2020年12月までに閉店したと発表した。そのなかでも中小企業が占める割合は大きいだろう。
新型ウイルス感染症が流行しはじめたころ、サンディエゴ在住のアレックス・ウィレン氏はペットホテルの創業に向けて準備を進めていた。建築費用を補填するための融資を中小企業庁から受けようとしていたとき、新規事業への融資を停止していると取引銀行から通知があった。同氏は、感染症流行がすぐに収束する見込みがないことを悟った。つまり、犬の飼い主は、旅行に出かけることもなく自宅での勤務を続けることになる。ペットホテルを利用する機会はないだろう。
2020年5月には、融資の申請ができるようになった。しかし、ウィレン氏は営業を開始することを断念し、おそらく数ヶ月超にわたって収入が得られなくなることを受け入れた。
同氏は、「11月か12月頃までに新型コロナウイルスが収束することはなさそうでしたし、ペットホテルにとっては、それは実に長い年月となりますから」と話す。
そこですぐに、犬用トリーツ(おやつ)のビジネスを再開することにした。ペットホテルの準備のために延期していたものの、市場調査やパッケージのデザインなど、準備段階に必要な段取りは終えていたため、白紙状態からはじめる必要はなかった。
ウィレン氏は2頭の愛犬クーパーとメープルのためにトリーツを手作りする。このことが「Cooper’s Treats(クーパーズ・トリーツ)」を生み出すアイディアとなった。作ったトリーツは、専用ウェブサイトとアマゾンで販売されている。
同氏は、「まるで本当のビジネスのようです」と言う。
2020年夏、キャスリン・バレンタイン氏はコンサルティング事業を廃止した。子供を預ける保育サービスを利用できなくなったためだ。ベビーシッターは自身の子供の世話をするために離職し、保育所はどこも休園している。アトランタ在住の母親であるバレンタイン氏が、乳幼児の預け先がない状態で、顧客であるアパレル企業に合わせた9時から5時の時間帯で勤務を続けることはできなかった。すぐにでもほかの仕事を探さなければならない状況に置かれた。
バレンタイン氏は、キャリアアップに必要なスキルである交渉力を女性に教育する専門知識を備えていた。この分野について深く学んだビジネススクールでの経験を活かして「Worthmore Negotiations(ワースモア・ネゴシエーション)」を創業し、法人顧客からの支持を得ている。
同氏は、「1週間に1度ほど、日中に約束が入ることがありますが、それ以外は午後7時以降に働くようにしています」と話す。一方で、新型ウイルス感染流行が収束した後にはコンサルティング事業を再開し、保育サービスを利用したいと考えている。両方のビジネスを並行して継続することを望んでいる。
イギリスに住むスティーブ・ウェスト氏は、繰り返し実施されるロックダウンの影響を受け、鍼灸院の休業を余儀なくされた。収入がまったくない状況で再開したのは、デジタル・マーケティングの仕事である。サブプライム住宅ローンに端を発する世界的大不況下においても鍼灸院の収益は落ち込んだものの、なんとか乗り越えられたのはこの仕事があったおかげだ。密に接触することに人々が不安を感じなくなることが前提となれば、鍼灸院の再開はいつになるのか、また再開そのものが可能なのか、定かではない。
さらに、生活が通常に戻ったとき、鍼灸治療を受けなくても健康に過ごせたと考える患者も出てくるだろう、という懸念もある。一方で、インターネット検索での表示を上位にするためのデジタル・マーケティングは、企業からの需要が絶えることはない。
イギリス南部に位置するヘイワーズ・ヒースに住む同氏は、「いまはデジタル・マーケティングに重点を置くときなのでしょう。将来的には鍼灸院を再開すると思いますが」と話す。
クリティ・サチデヴァ氏は、電子商取引コンサルティングを行う機関に職を得たばかりだ。イギリスなどのヨーロッパ各地で開催される展覧会やマーケットを運営する事業を手掛けていたものの、休業を余儀なくされた。2020年3月、ロンドンで予定されていた展覧会は、開催のわずか5日前に中止が通知された。そしてその後数ヶ月の間に開催予定であった5件のイベントについても同様に中止となった。
4月には、サチデヴァ氏は新たに仕事を探す必要があることを実感した。同氏は、「この状況が長く続くことはわかっていましたし、それに対してどうすることもできないことも理解していました」と話す。
6月になり、サチデヴァ氏は新しい職を得た。いまの仕事は大変気に入っており、長く続くものだろうと考えてはいるものの、いつか副業として展覧会を運営する機会を得たいと思っている。
同氏は、「それについては毎日のように考えています」と言う。
By JOYCE M. ROSENBERG AP Business Writer
Translated by Mana Ishizuki