カマラ・ハリスのヴォーグ表紙、なぜ批判を呼んだのか

Tyler Mitchell / Vogue via AP

 ファッション・メディアにおける世界的権威である米国版ヴォーグの表紙をめぐり、インターネット上で論議が起こった。2月号の表紙を飾るのは、次期米国副大統領のカマラ・ハリス。リークしたその表紙写真に対して、おもに否定的な声があがり、ファッション評論家も批判的な見解を示した。一方、表紙撮影や関連記事の執筆には黒人クリエイターを起用するなど、ヴォーグなりの背景や考えがあったということも伺える。人々のハリスに対する期待度が高いからこそ、その政治力が過小評価できないヴォーグの表紙が注目と議論を呼んでいる。

◆ヴォーグの「カバーストーリー」とは
 1月6日、米国連邦議会占拠事件の混乱を経て、米大統領選の投票結果の認定が行われ、バイデン次期大統領とハリス次期副大統領の就任が決まった。米国初の女性副大統領であるだけでなく、米国初の女性大統領になる可能性が非常に高い立場に立つハリスは、米国だけでなく世界が注目する人物であり、このタイミングで彼女を扱ったヴォーグの表紙写真が持つ影響力は少なくない。

 雑誌の表紙写真は、公開予定より先にリークした。白のTシャツの上にブラウンの上着、黒のスリムパンツとトレードマークとなったコンバースのスニーカーという、選挙活動中にもよく見られた私服を身にまとったハリスが、無造作に垂れた緑とピンクの布を背景に立っている全身写真。両手を握り、仁王立ちのようなポジションで立つ笑顔のハリスの雰囲気は、よく言えば作り込んでいない気さくな感じであり、悪く言えば少し中途半端な感じである。その後、ヴォーグはこの雑誌の表紙写真とともに「デジタル版表紙」として別の写真も公開した。その写真では、ハリスは米国旗のラペルピンをつけた薄いブルーのスーツを着用し、腕を組み、イエロー・ゴールドの背景の前に立っている。膝下はカットされているため、表紙における被写体が大きい構図で、全体的に力強い印象である一方、政治家やビジネスマンなどを扱った雑誌表紙写真として、よく見かける雰囲気だとも言える。

 写真の撮影は、才能ある若手黒人写真家として注目されるタイラー・ミッチェルが手がけた。彼は、ビヨンセやハリー・スタイルが表紙を飾ったヴォーグ表紙写真も手がけた実績を持つ。彼の作品は、黒人が被写体であることも少なくない。彼なりのフレッシュな視点、いままでにないような視点は、彼が頭角を現した要因の一つだ。昨年、米ヴァニティ・フェアの表紙を飾ったニューヨーク州の若手下院議員アレクサンドリア・オカシオ=コルテスの撮影も手がけた(高級ブランドに身をまとったオカシオ=コルテスの姿が、その社会主義よりの政策と乖離・矛盾するとして批判された)。撮影監修は黒人ファッション・エディター、ガブリエラ・カレファ=ジョンソン(Gabriella Karefa-Johnson)が担当した。

 ヴォーグでは写真の公開とともに、ハリスに関する2本の記事をウェブサイトに掲載。どちらも黒人ライターが執筆した記事だ。一つはVogue.comでファッションニュースを担当するシニアライターのジャネル・オクォドゥ(Janelle Okwodu)が執筆したもので、表紙写真に関するバックストーリーが綴られている。雑誌表紙のコンセプトは、ハリスが、ハワード大学「アルファ・カッパ・アルファ」ソロリティで過ごした時代に敬意を表したものだ(ソロリティは、女子大学生の会員組織・寮。独自の文化・規則・儀式などを共有する団結力の強い米国大学固有のクラブ)。背景布のアップルグリーンとサーモンピンクは、彼女が所属したソロリティの公式カラーである。ハワード大学は、歴史的黒人大学(HBCU: Historically Black Colleges and Universities)の一つである名門大学で、「アルファ・カッパ・アルファ」は1908年に設立された黒人のための最初のソロリティ。過去にノーベル賞作家のトニ・モリスンらも寄付している(同記事)。ヴォーグが公開したもう一方の記事は、ナイジェリア系アメリカ人のアレクシス・オケオウォ(Alexis Okeowo)が執筆。彼女の記事はファッションについての言及がほぼなく、ハリスの生い立ちや、副大統領当選までの軌跡を辿ったロングストーリー。ヴォーグのコントリビューティング・エディターであるオケオウォは、ニューヨーカーの記者でもある。

Text by MAKI NAKATA