インドネシアで墜落事故が多い理由 再燃する懸念
1月9日、乗員乗客62人を乗せたインドネシアのスリウィジャヤ航空機が離陸直後にジャワ海に墜落した。この事故を受けて、インドネシアの航空産業の安全性に対し、再び厳しい批判の目が向けられている。
インドネシアは、飛行機事故の発生数においてアジアで最悪の地域のひとつだ。乗客の負傷や死亡をともなう民間旅客機事故の発生件数では、1945年以降、この地域のほかのどの国をも上回っている。過去の事故に目を向けると、パイロットの訓練不足、機械的な故障、航空管制上の問題、さらには機体整備の不備などがその原因として挙げられている。
専門家らによると、近年この分野において多くの改善が図られたとのことだが、今回起きた墜落事故によって、その専門家たちの間からもインドネシアにおける航空産業の監視と規制の体制が本当に改善されたのかどうか、疑問の声が上がっている。
◆なぜインドネシアで、これほど墜落事故が多いのか?
ひとことで言うなら、それは経済的、社会的、地理的な要因が組み合わさった結果だ。
1990年代後半、スハルト政権の崩壊によって数十年にわたる独裁政治の時代が幕を下ろし、インドネシア経済は自由化された。その後に始まったインドネシア航空産業の急成長の初期には、航空業界としての規制や監視を行う体制が同国にはほぼ存在しなかった。
そこでは低価格を売りにする航空会社が大きく業績を伸ばし、それまで国内の多くの地域で効率的で安全な交通インフラを欠いていたインドネシアの人々にとって、飛行機での移動が、多くの島々からなる広い国土を旅する一般的な手段となっていった。
航空安全ネットワーク(Aviation Safety Network)のデータによると、1945年以来、インドネシア国内では民間旅客機の事故が104件発生。その死者数の合計は1300名以上に上り、アジア地域において最も飛行機事故のリスクが高い地域となっている。
アメリカ政府は、「技術的専門知識、十分な訓練を受けた乗員、記録管理や検査手順など、ひとつまたは複数の領域において不備がある」ことを理由に、2007年から2016年まで、インドネシアの航空会社によるアメリカ国内での運航を禁止していた。またEUも、2007年から2018年にかけて同様の禁止措置を取っていた。
◆はたして改善されたのか?
結論から言えば、その答えは「イエス」だ。
『エアライン レーティング・ドットコム(AirlineRatings.com)』の編集長を務める航空専門家のジェフリー・トーマス氏はAP通信に対し、「航空業界の取り組みは大幅に改善され、監視体制はより厳格化した」と語る。
トーマス氏によれば、この取り組みのなかには、検査頻度の増加、保守施設と保守手順に関わる規制の厳格化、ならびに、より質の高いパイロット訓練の実施が含まれるという。
2016年、アメリカ連邦航空局はインドネシアに対して「カテゴリー1」の格付けを与えた。この格付けの変更は、インドネシアがICAO(国際民間航空機機関)の安全基準を遵守しているとアメリカ当局が判断したことを意味している。
◆ではなぜ、今回の事故が起きたのか?
現時点では、事故原因はまだ不明だ。事故機は豪雨の中でジャカルタの空港を離陸しているが、専門家らによると、この悪天候の要因はあくまで、人為的ミス、機体の状態など、想定されるいくつもの要因のうちのひとつに過ぎないという。
事故当時、現場付近の海域にいた漁師らの話では、爆発音が聞こえた後に、漁船の周囲を漂う破片や燃料を目撃したという。しかし、激しい雨が視界を遮り、彼らはそれ以上詳しく何かを見ることはできなかった。
スリウィジャヤ航空は、過去には目立った重大事故を起こしていない。そのなかで比較的大きな事故としては、2008年、着陸滑走中の機体が油圧系統のトラブルからオーバーランを起こし、地上にいた農民1名が死亡した事故がある。
スリウィジャヤ航空のジェファーソン・アーウィン・ジョーウェナ社長は、「墜落した機体には飛行に充分な耐性が備わっていた」と述べている。今回事故を起こしたのはボーイング737-500型機で、製造から26年が経過しており、過去にはアメリカの航空会社のもとで飛行を行っていた。同社長は記者団に対し、事故機は事故当日にも、それ以前の時間に別便として問題なくフライトを行っていたと述べた。
ただし専門家らは、事故機が実際に飛行に適した状態だったかを判断するためには、今後の調査が待たれるとの見解だ。
◆さらなる情報は、いつ得られるのか?
海中から回収された機体の残骸の一部から、事故当時の状況を推測できる情報が得られる可能性がある。海底の泥に埋もれたブラックボックスの位置はすでに特定されており、ダイバーなどによって、現場の海域でフライトレコーダーも回収された。
インドネシア政府にはこの調査において主導的な役割を果たすことが求められており、調査プロセスへの国際的なオブザーバーの参加も期待されるところだ。インドネシアの航空コンサルタント、ジェリー・ソージャトマン氏は、「今後1ヶ月以内にインドネシアの国家運輸安全委員会から中間報告があるだろう。ただしその報告書は、あくまで分析作業の開始点に過ぎない」と述べている。
By VICTORIA MILKO Associated Press
Translated by Conyac