米アマゾン、オンライン薬局を開設 業界に激震

AP Photo / Steven Senne

 米アマゾン・ドット・コムで、インスリンと吸入器が販売されるようになった。

 小売大手アマゾンは11月17日、オンライン薬局を開設した。薬剤やリフィル処方箋薬を注文することができ、2~3日中に自宅まで届けてもらえる。

 アマゾンの調剤業界進出を受け、業界には波紋が広がっている。17日、CVSヘルス・コーポレーションやウォルグリーン、ライト・エイドの株価は軒並み下落した。

 上に挙げたような大手チェーン店は、ドラッグストア各店舗における安定的な集客と、スナック菓子やシャンプー、食料・雑貨の「ついで買い」を収益の柱としている。新型コロナウイルスの影響により家で過ごす人が増えたことから、いずれの企業もオンラインサービスの拡充をはかり、処方薬をはじめとする各種商品の配送サービスを大々的に宣伝してきた。しかしアマゾン・ドット・コムは、このようなオンライン事業の第一線を走る。オンラインストアは圧倒的な規模を誇り、何百万人もの愛用者が書籍やテレビなど、ほとんどすべてのものをアマゾン・ドット・コムで購入している。

 シティリサーチのアナリストは、「今回のニュースはシステムの崩壊を招き、小売店における調剤の需要が落ち込む恐れがあり、大きな脅威となるでしょう」と記している。

 アマゾンには、これまでも崩壊を招いた歴史がある。オンライン書店として1995年に創設されると、そのほかの書店もネット販売への移行を進めるきっかけとなった。2011年に姿を消した書店チェーン、ボーダーズのように、この流れに乗り遅れた企業は廃業に追い込まれた。

 3年前には、アマゾンがホールフーズ・マーケットを買収したことで、スーパーマーケットの株価が急上昇した。しかし多くの企業は食料・雑貨の宅配サービスや「カーブサイド・ピックアップサービス」を取り入れ、アマゾンの勢力に上手く立ち向かっている。

 アマゾンはまた、同社の荷物の半分以上を自社で輸送しているため、輸送会社にとっても脅威となっている。アマゾンのロゴが印刷されたトラックは、UPSの宅配トラックと同じくらい日常的に見られるようになった。

 アマゾンによると、同社のオンライン薬局は、軟膏や錠剤などアメリカで一般的に処方される薬剤のほか、インスリンのような冷蔵保管が必要な薬剤にも対応する。

 オンライン薬局を利用するには、まずアマゾンのウェブサイトにプロフィールを登録する。そして、主治医に処方箋を送ってもらう。オピオイドなど、乱用されるリスクが高い薬剤は届けてもらえない。

 保険については、大半のものに対応するとしている。しかしプライム会員なら保険に加入していなくても、ジェネリック薬やブランド薬を割引価格で購入可能だ。保険未加入者は、コストコ、CVSヘルス、ウォルグリーン、ウォルマートなどの薬局の全国5万件の実店舗でも割引を受けることができる。

 ヘルスエコノミストのクレイグ・ガースウェイト氏は、調剤を希望する患者にとってアマゾンが魅力的となり得る理由をいくつか挙げている。

 ノースウエスタン大学のケロッグ経営大学院で講師を務めるガースウェイト氏は、アマゾンの参入で、より快適に調剤薬の価格を比べたり、購入したりできるようになり、同社がジェネリック薬の価格面で競争力を発揮する可能性があると指摘する。

 エドワード・ジョーンズ社でウォルグリーンを担当するアナリスト、ジョン・ボイラン氏はさらに、アマゾンの調剤ビジネスについて、保険に入っていない人や、保険金が給付される前に高額な自己負担金を支払わなければならないプランに加入している人にとっても魅力的であるとしている。

 同氏によると、アマゾンの新規参入によりおもに影響を受けるのは、比較的小規模なドラッグストアだ。小さなドラッグストアは、大手小売企業のような購買力もないし、大手ドラッグストアチェーンのように保険会社と契約を結んで、処方薬を求める患者を店舗に誘導してもらえるわけでもない。

 アマゾンは、これまでにも何度かヘルスケア業界に目を向けてきた。2年前には、7億5000万ドルでピルパックを買収した。ピルパックは、薬剤を飲むべき日時ごとに小さな包みに分けて提供するオンライン薬局だ。

 ほかにも、従業員向けの医療ケアを向上し、その費用を管理することを目的に、JPモルガン・チェース、バークシャー・ハサウェイとともにヘイブンというベンチャー企業を立ち上げた。

 CVSヘルスやウォルグリーンは全国に数千店舗のドラッグストアを展開し、顧客を呼び込んできたが、さまざまなマーケットで当日配送サービスを開始するなど、オンラインショッピングの台頭に対応しようと取り組んでいる。

 ウォルグリーンはまた、フェデックスと提携し、1~2日以内の配送サービスを行っている。同社CEOのステファノ・ペッシーナ氏は7月、ウォルグリーンは今年初めの新型コロナウイルス感染拡大を受け、自宅配送とオンラインサービスの両方で「過去最高の需要を記録した」とアナリストらに報告した。

 両社は医療サービスも拡充しており、糖尿病など慢性疾患のモニタリングをサポートするなど、アマゾンをはじめとする競合には真似できないサービスを進めている。

 CVSヘルスはさらに、エトナという国内最大規模の医療保険会社を経営するほか、薬剤の処方プランを提案する薬剤給付管理(PBM)事業も大々的に行っている。

 広報のT.J.クロウフォード氏は声明で、薬局業界に新たな競争が発生したことに驚きはないとしながら、CVSヘルスは街角の薬局から「ずっと大きな存在」に進歩したと述べている。

 エコノミストのガースウェイト氏は、アマゾンも同様に、進化を続けるだろうと予想する。

「後に今回のことを、アマゾンがPBM企業になる最初の一歩だったと振り返るときが来るかもしれません」と同氏は言う。

 17日、CVSヘルスの株価は10%近く下落。ウォルグリーンも9%近く株価を落とした。さらにライト・エイドが16%超の急落を見せた一方、アマゾンの株価はわずかに上昇している。

Translated by t.sato via Conyac
By JOSEPH PISANI and TOM MURPHY AP Writers

Text by AP