バイデン氏、黒人有権者にアピールする選挙広告を配信

AP Photo / Andrew Harnik

 米大統領選挙の民主党候補ジョー・バイデン氏は、黒人有権者に向けた選挙広告を新たに打ち出した。「1世代前の暴力的な人種差別主義」に抵抗した先人たちのように、ドナルド・トランプ大統領に立ち向かうよう有権者に強く訴えている。

 1分間の広告は、インターネットやテレビを通じて8月6日より配信される予定だったが、AP通信が先行して独占入手した。11月に行われる大統領選挙に向けて、バイデン氏の主要な支持基盤である黒人有権者からのさらなる支持を意図している。「ベター・アメリカ(より良いアメリカに)」と題された広告は、名指しこそしないまでも、共和党のトランプ大統領を直接的に批判するものでもある。

「私たちは、そのようなより良いアメリカのために闘うと決めなければいけません。そして、1世代前の暴力的な人種差別主義に抵抗した先人たちのように、この大統領に立ち向かい、『もうたくさんだ』と伝えるのです。なぜなら、アメリカは彼よりも良いものなのです。私たちは、より大きく、より力強くなると決めましょう。私たちは、正義、尊敬の念、尊厳をこの国に取り戻すと決めましょう。私たちは、希望あるアメリカの将来への先導者として、ジョー・バイデン候補に決めましょう」と、ナレーターは語りかける。

 バイデン氏の大統領選への出馬は、アフリカ系アメリカ人から多くの支持を得ている。さらに、サウスカロライナ州の予備選での勝利が確定して以降、独力で民主党の大統領選の様子を一変させ、最有力候補としての地位を固めたことが評価されてきた。

 民主党支持層のなかでも多数派を占める黒人有権者は、新型コロナウイルス感染症拡大により二重の痛手を受けている。アメリカ全域において、新型ウイルスによる黒人の死亡率は際立って高く、さらに経済低迷の矢面に立たされている。そして、警察官による残虐行為と体系的な人種差別に対する歴史的な抗議運動がこの数ヶ月間続くなか、人種をめぐる世論は変わった。人種問題に国民からの強い関心が集まり、大統領選の中核をなす議論となった。

 バイデン陣営は、秋に向けて展開するインターネットやテレビ向け選挙広告に、2億8000万ドルを投じる計画であると、8月5日に発表した。これには、新たに配信が決まった広告も含まれている。

 この広告費よりバイデン氏の選挙資金調達が好調であることが裏付けられるものの、そのメッセージは、全米がひどく混乱している時期に前副大統領がアフリカ系アメリカ人と連携するための取り組みを継続していることを伝えている。バイデン陣営の報道官は声明のなかで、これを皮切りに、黒人有権者に向けた情報発信を続けていくつもりだと述べている。

「アフリカ系アメリカ人を対象にした宣伝広告など、当陣営の確固たるメディア戦略には大統領選本選に向けた最大規模の資金が投じられており、全米の黒人コミュニティーと直接対話するというバイデン副大統領の政策提案や、優先的に取り組むべき目標を広めていくつもりです」との声明が発表された。

 選挙広告は、公民権運動時代に行われた抗議運動の様子が描かれており、当時の抗議者が受けた、警察犬や行き過ぎた警官からの不当な扱いが映し出されている。現在の映像には、抗議運動に参加する多くの若いアフリカ系アメリカ人が「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」と描かれたポスターを掲げたり、「I can’t breathe(息ができない)」と書かれたシャツを着たりしている様子が映し出されている。その映像からは、警察官の手によって死に至らしめられたミネソタ州の男性ジョージ・フロイド氏が粛然と思い起こされる。同氏の死を発端に世界中で抗議運動が引き起こされた。

 選挙広告はまた、公民権運動の偉大な闘士に敬意を示している。同じ7月17日に死去したジョン・ルイス下院議員とC.T.ヴィヴィアン牧師、そして、黒人女性として初めて連邦議会議員に選出されたシャーリー・チザム氏である。また、広告のなかでは、2017年にバージニア州シャーロッツビルで行われた数百名による白人至上主義者への抗議行動とトランプ大統領が関連づけられているように見える。双方の映像が矢継ぎ早に流され、「no more(もうたくさんだ)」の言葉が添えられている。

「アメリカ黒人社会の物語はアメリカの物語です。それは、この国が誓ってきた思想に従って行動するよう働きかけてきた人々についての物語です。まさに黒人は、より良いアメリカへの約束を常に信じてきたのです」と、ナレーターは語る。

 バイデン氏は、15州における広告放映枠を確保している。15州には、従来から激戦州とされるペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、フロリダの各州に加え、アリゾナ、ジョージア、テキサスなど歴史的に共和党支持の多い州、さらに、オハイオやアイオワのような近年民主党支持離れが見られた従来からの激戦州もわずかに含む。

 この広告は各州で放映される予定であるが、なかでもBET(ブラック・エンターテイメント・テレビジョン)やTV One(ティーヴィー・ワン)など、アフリカ系アメリカ人視聴者の多いチャンネルを対象とする。

 8月5日に発表された声明のなかで、バイデン陣営による宣伝広告への取り組みは、ラテン系やアジア系アメリカ人、太平洋諸島民の有権者も対象とする予定であることが明かされた。

By KAT STAFFORD Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP