ベトナムでコロナ再流行 99日間封じ込めに成功も
ベトナムでは99日間にわたり、新型コロナウイルスの流行抑止に成功していたかに見えた。市中での感染発生は1件もなく、死者数ゼロを記録していた。ごく少数の症例が国境で報告されて隔離措置が行われたものの、人々は日常生活を取り戻し始め、人口9600万人を抱えるベトナムは感染抑止に成功していると世界各国からの高い評価を得ていた。
しかしその後、新型ウイルスの感染拡大が始まり、7月末の時点で国内3大都市を含む6地域において感染者が報告された(訳注:8月6日時点で、国内の感染者は717名)。
多くの人々にとってすでに過去のものになっていた制限の再導入が余儀なくされている。専門家は、実際の感染状況が現在把握されているよりもはるかに広がっている可能性を危惧している。
7月23日、絵のように美しい沿岸都市ダナンにおいて、新型ウイルスの流行が最初に確認された。輝きを放つようなビーチでは、何千人もの観光客が夏季休暇を過ごしていた。発熱により入院した57歳男性は、検査で陽性が確認された後、容態が悪化し、人工呼吸器が取り付けられた。
保健当局はすぐに対応に努めたが、男性の感染経路は不可解であった。ひと月以上、居住地の町から出たことはなく、検査対象となった男性の家族や、接触歴のある100名はいずれも陰性であった。
ダナン市では、その後の週末にかけて新たに3名が、そして翌月曜日には11名の感染が確認された。新たに判明した感染者はいずれも、男性が依然として危篤状態で入院しているダナン病院の患者、もしくは医療従事者である。
7月27日、当局は臨時便を用意し、8万人の観光客に退避勧告を出した。ホテルから宿泊客はすっかり退去し、数千人分の宿泊予約がキャンセルされた。
7月28日、ダナン市はロックダウンを実施した。賑わっていたビーチは閉鎖され、警備員が巡回しているのみである。一方で、対策にあたっての優先順位については混乱も見られた。確かに、観光客が退避することでウイルスはさらに拡散した可能性がある。
実際に、7月30日までに報告された感染者数は43名となり、そのうちの2名は首都ハノイで確認されている。感染者の感染経路はいずれも、ダナンから戻った旅行者など、ダナンに端を発するものとされていた。
感染者にはアメリカ人が1人含まれている。ダナン病院で診察を受け、その後南部の都市ホーチミンにある病院へ搬送された。同行者からも感染の陽性反応が確認されている。
現在、当局はあらゆる規制措置を再導入している。ダナン市および近郊都市では、不要不急のサービスは閉鎖され、大規模な集会は禁止されている。首都ハノイ市では、バーやナイトクラブを休業にしている。さらに、最近ダナン市へ訪問したハノイ市民2万1000人を対象に検査を行う予定である。
ハノイ市でヌードルレストランを営むファム・ヒエン氏は、店内での飲食を中止し、テイクアウトやデリバリーのみの対応を行うつもりだと話す。商売は苦境にあるが、政府からの勧告を順守するという。
「いま大事なことは、この闘いにおいてすべての国民と政府が協力し合うことでしょう」と、ヒエン氏は話す。
一体どこからウイルスが舞い戻ってきたのか、謎は残る。今回のウイルスは前回と系統が異なるため、ベトナム国外から持ち込まれたものだと当局は推測している。
「前回と大きく異なる点として気づいたことに、いま流行している感染症は重症化する症例が多いことが挙げられます」と、生物数学者のマーク・ショワジー氏は述べる。ハノイに拠点を置くオックスフォード大学臨床研究部門で研究を行っている。
ショワジー氏は、重症化する割合の高さから、数百名以上の無症状感染者が市中に潜在している可能性を示唆している。「現在、感染症がひそかに広まっている可能性は非常に高いでしょう」と、ショワジー氏は述べる。
その一方で、政府は隔離措置を逃れるために密入国をはかる人々への取り締まりを強化しており、中国からの密入国者が相次いで逮捕されている。しかしながら、当局は現時点で、密入国者とウイルス再流行に直接的な関連性があるとは見ていない。
ベトナムは、前回の新型ウイルス流行を抑止してもなお、感染を封じ込めるための奮闘を続けており、その取り組みは世界各地からの評価を得てきた。オーストラリアでは、メルボルン市で感染拡大が確認された7月時点で、1日の新規感染者数は1桁に減っていた。当局からの発表によると、7月30日にメルボルン市とその周辺で報告された感染者数は700名を超え、過去最多を記録したという。香港からスペインにいたる各地においても、一見ウイルスを封じ込めているかのように思えたが、現在、新たな感染拡大への対応を迫られている。
現在ベトナムで拡大している新型ウイルス流行に対する政府の対応の速さは、初期のウイルスの脅威へのスピード感ある対策を反映したものであり、この初動対応の早さにより感染拡大が抑えられていたと専門家は評価している。
たとえば、2月中旬、ベトナム政府はハノイ市近郊にある人口1万人の村、ソンロイを3週間隔離した。当時、国内で確認されていた感染者数はわずか16名であったにもかかわらず、である。
ベトナム共産主義政権はまた、国民に対し、メールやソーシャルメディアを通して簡潔な方針を示した。さらに、一人一人の携帯電話にショートメッセージを発信した。
3月22日まで、ベトナムは実質的な鎖国状態であった。大半の国際線が運航を停止し、1440キロメートルにおよぶ中国との国境は封鎖されていた。
市中感染が1例でも確認されると当局はすぐに接触者を追跡し、隔離し、広範囲に検査を行う。ベトナムは、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)を封じ込めた経験を活かし、新型コロナウイルスについても最近までは感染拡大の抑制に成功していたといえる。
しかしながら、生物数学者ショワジー氏は、前回に比べて今回は、当局が新型コロナウイルスの感染拡大を把握するタイミングが遅かったことを危惧している。
「新型ウイルスについて新しい情報がしばらくないと、あっという間に忘れてしまい、日常生活に戻るものです。その生活に慣れてしまうのです」と、ショワジー氏は警鐘を鳴らす。
By HAU DINH Associated Press
Translated by Mana Ishizuki