先生がテレビで授業 ネット環境ない家庭向けに アメリカ

AP Photo / Seth Wenig

 高校で歴史を教えているビル・スミス氏は猫用の毛布を使い、ニュージャージーで19世紀に存在した秘密結社「地下鉄道」に関する授業を録画した。奴隷狩りから逃れようと必死に川を渡ろうとする人々――そうした歴史の舞台を収めた番組を生徒が視聴した。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、自宅に留まっているニュージャージー州の生徒たちに学習の機会を提供する取り組みの一環として、こうした授業がテレビで放送されている。

 スタッフォード・タウンシップにあるサザン地域高校で教鞭をとるスミス氏は、「このような授業は奇妙で変な感じがする。悲しいことだ」と言う。自身がボランティアで行っているテレビ授業は「生徒が州内のどこに住んでいても視聴できるほか、先生の顔を見て、そこから学ぶことができる」と同氏は語る。

 ニュージャージーのほか、ネブラスカ、ニューメキシコなどの州でも教師がさまざまな技術を使って自宅で授業を録画している。これらの地域では教育当局がテレビ局と連携し、遠隔学習にアクセスするための技術を提供することで生徒たちがつながりを感じられるよう支援している。

 学校の閉鎖期間中、国内の公共メディアが教育プログラムの利用を促進することは、数ある取り組みの中でも意味のある方法だといえる。

 ニュージャージー州のテレビ授業は、州教育局、最大の教職員組合であるニュージャージー教育組合、同州の公共放送NJTVが協力して4月6日に開始された。小学3~6年生向けに、1時間の番組が平日に放送されている。同じく遠隔勤務をしているNJTVの社員が番組を制作し、映像を流している。

「このようなことができるとは思わなかった。何か格言がなかっただろうか? そう、必要は発明の母だ」と、NJTVジェネラルマネージャーのジョン・セルヴィディオ氏は話す。

 この放送は生徒たちの心をつかんでいる。

 小学4年生で9歳のコリン・パワーズ君は先生のテレビ番組に触発されて、いくつか詩を作った。彼と父親のティム・パワーズ氏は電話でのインタビューでお気に入りの詩を教えてくれた。家族が直面している新たな現実の一面を物語っている。

「バン! ドアがしまる ただいまー 家にずっといるとこんな音も聞こえない ドアが開くのは外に遊びに行くときだけ コンコン! 郵便局の人だよ 届いた荷物をきれいに、きれいにしなきゃ」

 ニュージャージー州ハドンフィールドの高校で英語を教えるキンバリー・ディックスタイン・ヒューズ氏は、長期休暇中の取り組みの一環としてテレビ授業プロジェクトの調整に協力することにした。彼女は今年、同州の最優秀教師賞を与えられている。授業当日、ソーシャルメディアで好意的なコメントを目にして、感情が高ぶったという。

「本当に息が詰まりそうになった。教育コミュニティが子供たちのために一つになり、この異常な状況下で通常の学校生活の感覚を取り戻すためなら何でもするという姿勢に、本当に勇気づけられた」と話している。

 州教育局によると、テレビ授業の目的は、各地で行われている遠隔授業の補完であるという。大半の生徒は自宅でインターネットやパソコンを使えるものの、そうした手段にアクセスできない生徒もいる。「公共放送の番組なら、州内のどこにいても視聴できる」と教育関係者は話している。

 テレビ授業の対象は小学3~6年生。中学生以上だと遠隔学習の機会がたくさんあるほか、小さい子供は1時間の授業についていくだけの集中力がないのではというのが教育関係者の見方だ。

 ボストンやロサンゼルスといった大都市では、放送事業者や教育関係者が科学ドキュメンタリーの「ノヴァ」や「ネイチャー」といった教育的価値のある番組の提供を拡充する方法を検討している。

 コリン・パワーズ君は、自分の好きなときに、ときには前庭の芝生でも勉強ができるなど、自宅学習にもいいところがあるという。一方で、友だちと会えない寂しさも感じている。

「とてもつらいけれど」と言いつつ、家族全員が元気であることから、「みんなでがんばっていけると思う」とコリン君は話している。

Translated by Conyac
By MIKE CATALINI Associated Press

Text by AP