ペットに大麻を与えないで。CBDもダメ。獣医毒性学の専門家は語る
著:John P. Buchweitz (ミシガン州立大学、Toxicology and Nutrition Section Chief)
最近、私は家族と休暇でフロリダに滞在した。何も予定のない午後の時間を使って、私たちは地域の店までお土産を買いに出かけた。ありきたりなTシャツやキーホルダー以外の何かを求めて私たちが訪れたのは、サラソータ市内の一角にあるセント・アーマンズ・キー。そこには、多くの個性的なお店が集まっている。
地区の周回道路をめぐり歩いている間、私の娘(14歳)は、そこで地元の人たちと出会うたび、「あなたの犬をなでてもいいですか?」と尋ねた。娘は家に残してきた飼い犬のベルを恋しがっており、ベルにも何かお土産を買って帰ろうと考えていた。
ベルへのお土産を探し歩いている時、私たちは信じられない店を見つけた。その店では、「あなたのペットにCBD(カンナビジオール)を!」を誇らしげに宣伝していた。CBDは大麻草由来の化学物質。ただしこれは、大麻摂取者をハイにさせる化学成分THCとはまた別のものだ。一部のタイプのてんかん治療を目的に、2018年6月にCBD誘導体を含む薬剤をアメリカ食品医薬品局が承認して以来、CBDは広くその名前を知られるようになった。
正直に言って、私自身はその店の中に入るのをかなりためらった。しかし、実際店にはかなりの数の犬と飼い主が出入りし、色々な製品を買っていた。そこにはCBD関連製品を売る店にありがちな怪しい雰囲気はまったくなかった。とうとう私は妻の顔を見て、「入ってみようか」と言った。
私自身は、権威ある獣医診断研究所に勤務する認定獣医毒性学者であり、ペットを含むあらゆる種類の動物を対象に、幅広い中毒症例を実際に見てきた。近年、私たちの研究所では犬を対象にした大麻陽性検査の依頼が増え続けている。その多くは、大麻製品を誤食した可能性が疑われるケースだ。アメリカ動物虐待防止協会は、2019年に同協会の毒物センターに寄せられた大麻関連の相談電話の件数が7倍以上に増えたと発表した。
父親として、また毒性学の専門家として、ペットにまで普及しつつある大麻に含まれるCBDその他の化学物質に関する娘からの質問には進んで答えたいと私は思った。ただしもちろん、娘にはまず、ある程度の予備知識を伝える必要があった。
「なぜ、ペットにCBDをあげるの?」
そこにあるいくつかの商品を見ながら楽しそうに笑っていた娘が、その時、とても良い質問を私に投げ始めた。「CBDとかヘンプって何? なぜそれをペットにあげるの?」
私はまず、最近の選挙の話を娘に切り出した。2018年には、医療用および嗜好用の大麻を合法化した州の数は、私の地元・ミシガン州を含めて33州にまで拡大。合法化されたことにより、ヘンプやCBDオイル、ペット用のおやつなど、人間およびペットを対象にした大麻関連製品の数と種類は大きく拡大した。
では、それぞれの製品には、どのような違いと機能があるのか? 大麻(学名:カンナビス・サティバ) は、66~113種類の、異なるカンナビノイド化合物で構成される。このうち、向精神性の「ハイ」な状態をもたらすデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)は、娯楽としての大麻使用において重要な物質だ。大麻を摂取するには、それを煙草のように吸うか、バターやオイルとして加熱食品に付加して使用するか(なかでも最もポピュラーな製品は、俗に「ブラウニー」と称される)、またはキャンディーその他の食品の形で摂取する、あるいは、オイルそのものとしての用法もある。これらの食品形態の大麻製品は、高濃度のTHCを含む場合が多く、家庭のペットに与えた場合、他の大麻製品よりも有害度が高い。さらに、そういった食品形態の大麻製品には、チョコレート、砂糖、甘味料のキシリトールなど、ペットにとって有害となりうるその他の成分もあわせて含まれていることも多いのだ。
私が勤務する動物診断研究所では、飼い主の不注意で(または、飼い主によって意図的に)大麻製品を摂取してしまった動物の症例を、これまで数多く診てきた。
THCは、犬に対して有毒だ。メルク獣医マニュアルによると、飼い主が見ても気づく可能性のある大麻中毒の一般的症状として、活動性の低下、協同運動失調(体の各部の動きの連携がうまくとれない)、瞳孔の拡大、動きや音、接触に対する感受性向上、唾液分泌過多、尿失禁などがある。獣医検査においては、中枢神経系の不活性化や、心拍が異常に遅くなるなどの症状が観察される場合もある。それほど一般的な症状ではないが、落ち着きがない、攻撃的、呼吸が遅い、低血圧、異常に速い心拍数、急速で不随意な眼球運動などの症状が見られることもある。そしてごくまれに、動物が発作を起こしたり、または昏睡状態に陥ったりするケースもある。
大麻の分類で言うと、ヘンプはマリファナとは別のものだ。ヘンプはTHCの含有量がはるかに低く、CBDの含有量が顕著に多い。つまりある意味では、ヘンプが人間やペットにTHCの有害な副作用を及ぼす確率は低い。CBDには、THCのような向精神作用はない。ただし現状では、ヘンプ製品の化学組成に関する規制が存在しないため、製造業者が製品ラベルに記載した内容を見る以外には、各製品のTHC成分の含有変動幅を知る方法がない。また、ヘンプ製品を慢性的に摂取した場合の長期的な健康への影響や、他の薬物と併用した場合の影響については、まだほとんど知られていない。
そして最後に、多くのCBDオイルはヘンプよりも大麻成分含有濃度が高いと言われている。が、これもヘンプと同様、組成に関する規制ルールがないため、実際の化学組成は個別の製品ごとに大きく異なる可能性がある。もう一つ付け加えると、カンナビノイドの有用性に関して世間で主張されている多くの情報は、じつは信頼性に乏しく、まだ科学的には証明されていない。このため現状では、それが患者(または患畜)にもたらす潜在的な利益については、人間の医師も獣医師も、いささか懐疑的だ。
◆ペットに大麻を与えるべきでない理由
「ではなぜ、ペットに大麻製品を与える人がいるの?」
大麻のうちマリファナに関して言えば、私が娘に言った答えは単刀直入だ。つまりそれは、ただ単に無知による、または誤った認識による虐待的な行為に過ぎない。人間の医療目的や娯楽目的で大麻製品が合法であることは、ペットを「ハイ」にしようとする行為を正当化するものではない。
ペットは人間と同じではない。多くの処方薬や市販薬、人間にとっては安全な食品が、ペットにとってもすべて安全なわけではない。たとえばアルコールは、ペットに対しても毒性がある。ペットにビールや酒を飲ませるのは面白いと思う飼い主もいるかもしれないが、実際には、それは動物にとって非常に危険なことだ。
ヘンプとCBDオイルに関して言えば―― 毒性学の専門家として、控えめに言っても自分はその治療効果や安全性について懐疑的だ。
もちろん私たちにとっては、ペットががんなどの病気によって不安や痛みを抱えて苦しんでいるのを見るのはつらいことだ。しかし、大麻製品には治療効果がありますと宣伝されているにも関わらず、実際にはどの製品も、FDA(アメリカ食品医薬品局)の厳しい審査と承認を受けたわけではない。信頼性に乏しい調査結果や人間の患者を対象にした少数のケーススタディだけでは、大麻製品がペットにとって「安全」だと断定するための情報としては不十分だ。
多くの人々は、植物由来の製品を「自然」とみなす傾向があり、たいした根拠もなくそれが「安全」な製品だと判断しがちだ。この思考パターンも問題だ。一言で言えば、「自然」なものが常に「安全」とは限らないのだ。
人間の患者の治療においては、治療にあたる医師と患者の関係について、一つ確実に言えることがある。この内容は、獣医師とペットの関係にも等しく当てはまる。つまりそれは、サプリメントの使用を選択する場合、資格をもったプロの専門家から、それに関する説明を受ける必要がある、ということ。その中で患者と専門家は、使用に際するリスクと継続的な健康モニタリングについて直接会話するわけだ。したがって、正規の教育を受けた専門家の話を聞かずに、ネット上にある素性の怪しい誰かの情報に頼るのは賢明ではない。
獣医診断サンプルとして大麻製品が持ち込まれる機会がますます増えている現状では、正しい診断を下すためのベースとして、今後のさらなる科学研究とより多くのケーススタディの結果が求められている。おそらくそれらを通じて、大麻製品およびその利点とリスクに関するより深い理解が得られるだろう。
ちなみに、わが家の愛犬ベルに関しては―― 私たちは結局、カラフルな新しい首輪をお土産に選んだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac