医療大麻の合法化を待つ患者たち エクアドル
ネリー・バルブエナ氏は、絶えず続く臀部の痛みと数週間にわたる不眠症に悩まされ、転移性乳がんの苦しみから解放されたいともがいていた。
大学教授のバルブエナ氏は、予想外のものに病気の副作用を解消する効果があることを発見した。それがカンナビジオール(CBD)という、大麻草から抽出される化合物だ。
医療目的での大麻製品の使用を許可する法律が最近、議会を通過した。病気の痛みに苦しむ患者にとって痛みを緩和する新たな救いとなるよう、バルブエナ氏は現在、エクアドル政府に法律の施行を求めて働きかけている。
「なにがなんでも助けが必要でした。なにをするにも痛くて寝ることもできないという経験をした人にしか、理解できないでしょうが」と同氏は言う。
エクアドル議会は昨年9月、マリファナに大量に含まれているテトラヒドロカンナビノール(THC)の含有量が1%未満であれば、大麻を医療目的で使用することを承認した。レニン・モレノ大統領にはその後1ヶ月、拒否権を行使する猶予が与えられていたが、拒否権は行使されなかった。現在は、正式な法律として新たな規範が公布されるのが待たれている。
ラテンアメリカの国々では、なんらかの形で大麻の医療上の使用を許可されている。今回の法律が正式に施行されれば、エクアドルは最も遅れての仲間入りとなる。アルゼンチン、コロンビア、メキシコ、パラグアイ、ペルー、ウルグアイのいずれにおいても、治療目的での大麻の使用を許可する法律が発効しており、その結果新たな産業が誕生した。この産業は急速な発展を遂げているが、さらに拡大する機会もある。
コロンビア出身の実業家で、医療大麻の生産・流通を行うキーロン・ライフ・サイエンスの共同創設者であるアルバロ・トーレス氏は、「人口6億2,500万人のラテンアメリカには、大きな可能性があります」と言う。
バルブエナ氏の闘病が始まったのは2012年。それから4年もせずに、がんはそのほかの臓器に転移し、痛みに耐える日々が始まった。
モルヒネパッチは一時的に痛みを緩和してくれるが、すぐに保険が適用されなくなり、購入するには法外な金銭が必要だった。また、パッチには嘔吐やむかつき、頭痛といった厄介な副作用もあった。
バルブエナ氏はフェイスブックで大麻に関する記事を読み、助けを求めた。するとその日のうちにある医師から返信があり、口内に噴霧するタイプのCBDをもらった。当時のことを振り返ると、「16時間眠り、大きな安らぎを得ることができました」と同氏は言う。
バルブエナ氏の家族にはほかにも、医療大麻の利用者がいる。夫の18歳の娘で、重度の脳性麻痺を患うタイス・ポンセ氏だ。夫婦によると、CBDのおかげで娘の発作、不安、不眠が緩和されている。
保守的な社会であるエクアドルの大麻に対する偏見を少しずつ払拭していこうと、バルブエナ氏は夫とともに、メディアを使ったキャンペーンを開始した。
多くの場合、CBDはヘンプから抽出される。ヘンプは別種の大麻であるマリファナにとてもよく似ているが、THCの含有量はわずかだ。アメリカ政府は一昨年、産業用ヘンプを違法ドラッグから除外している。
CBDの人気は増しているが、業界が宣伝する健康効果を裏付けるエビデンスはほとんど存在しない。大麻支持派は、大麻は痛みの緩和、不安の軽減、不眠の解消に効くと主張するが、それを実証する臨床試験は比較的少ない。
無所属の国会議員、ルルド・クエスタ氏によると、議員らは法律を提案する前に患者とその親族を集め、従来の薬では生活の質が損なわれるが、「治療用の大麻を使えば元の生活を取り戻せる」と主張した。
新たな規範で医療大麻の輸入・生産をどのように制限するのか、政府機関からのコメントはまだない。
エクアドルのカトリック大学所属の科学者で、医療大麻を研究しているオマール・バカス氏によると、南アメリカの小国エクアドルでも、すでに30種類超のブランドの国産・輸入医療大麻が闇市場で販売されている。
同氏によると、大麻製品が薬局で合法的に販売されるようになれば、利用者はたちまち100万人にのぼる可能性があるという。
また、産業用ヘンプの普及活動を行う非営利団体の創設者、オスカー・ファリス・ピノ・エレーラ氏によると、エクアドルにはヘンプを育てる理想的な気候条件がそろっている。また、ヘンプには医療目的だけでなくさまざまな用途が潜在している。
「雇用の創出にもつながる可能性があります」とバカス氏は説明する。
バルブエナ氏の夫、アレクシス・ポンセ氏は、一家が自身のために始めた戦いがいつの日かほかの人々を助けることになると信じ、心の支えにしている。
「がんなど痛みを伴う病気に苦しむ人々の親族もまた、患者と同じくらい苦しんでいるのです」とポンセ氏は語る。
By GONZALO SOLANO Associated Press
Translated by t.sato via Conyac