アリババ、創業者ジャック・マー会長退任 米中摩擦で不安広がるなか
アリババの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏が9月10日、世界最大のオンライン小売企業アリババの会長を退任した。中国のオンライン小売ブームの火付け役となった同氏が引退するのは、米中貿易戦争で業界に不安が広がる最中だった。
中国で最も有名な起業家で大富豪でもある馬氏は、昨年発表した会長退任・引き継ぎ計画の一環として55歳の誕生日を迎えた日に会長を退くこととなった。36人で構成され、アリババ取締役の多くを指名する権限を持つアリババ・パートナーシップのメンバーにはとどまる。
英語教師をしていた馬氏は1999年、中国の輸出企業とアメリカの小売店をつなぐ目的でアリババを設立した。
中国で成長を続ける消費者市場に同社は注力するようになり、ネット銀行、エンターテインメント、クラウドコンピューティングに進出した。2019年度第1四半期(4~6月)の売上高167億ドルのうち、国内事業が66%を占めた。
米中貿易戦争で輸入コストが上昇しており、中国の小売業界には不安が広がっている。
中国経済が減速するなか、オンライン販売の増加率は2018年通年の23.9%から2019年上半期には17.8%へと鈍化した。アリババによると、第1四半期の売上高は前年同期比42%増の167億ドル、利益は145%増の31億ドルだった。それでも、増収率は2018年通期の51%をやや下回っている。
アリババのeコマースプラットフォームで販売された商品の総額は25%増の8,530億ドルだった。これに対し、アメリカ最大のeコマース企業アマゾンの総販売額は2,770億ドルだった。
アリババ副会長の蔡崇信(ジョセフ・ツァイ)氏は5月の記者会見で、米中貿易論争の問題に関連して、会社は「正しい方の側」にいると述べている。蔡氏によると、輸入を増やして消費者市場を成長させるという中国政府の公約から利益を得られる立場にあるという。
ゲームとソーシャルメディア大手のテンセント、検索エンジンのバイドゥ、eコマース競合のJD.comとともに、アリババは中国での買物、エンターテインメント、消費者サービスを変革した。
同社が設立されたのは、中国でインターネットがあまり普及していない時期だった。ネットの利用が進むにつれて、同社は消費者に特化した小売やサービスに進出した。中国ではクレジットカードの利用が少なく、アリババはアリペイ(支付宝)というオンライン決済システムを導入した。
馬氏は、たびたびテレビ番組に出演している。杭州で開催された年次社員総会では、ブロンドのウィッグと革ジャケットを身にまとい、ポップソングを歌っている。顔が大きくて四角いため、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『E.T.』に出てくるエイリアンのようだと、自身の容姿を自嘲気味に語っている。
アリババは2014年9月にニューヨーク証券取引所で250億ドルの新規株式公開(IPO)を実施したが、中国企業では最大規模だ。
中国の富豪を追跡調査している胡潤百富榜(Hurun Report)によると、馬氏の個人資産は380億ドルといわれている。
馬氏は2015年、香港最大の英字新聞であるサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙を買収した。
同氏の後継となる張勇(ダニエル・チャン)氏は元会計士で、アリババでの勤務は12年に及ぶ。以前は消費者向けサービスに特化したTmall.comを率いていた。
アリババのeコマース事業には、家具から医療技術に至る中国の製品サプライヤーと外国の買い手をつなぐBtoB事業のAlibaba.comのほか、人気ブランド商品のオンラインショッピングサイトTmall.comがある。
アリペイは2014年、グループとは独立した金融関連会社アント・フィナンシャルとなった。アリババはほかに映画製作配給会社を立ち上げたほか、物流・配送サービスにも出資している。
馬氏は2011年、株主のヤフーや日本のソフトバンクに直ちに通知することなく自身が関与する企業にアリペイの経営権を移転させたと発表し、物議をかもしたことがあった。中国の規制遵守のために必要な措置とアリババは説明したが、価値ある資産の移転に際して支払額が少なすぎると話す金融アナリストもいる。この論争は、後になってアリババ、ヤフー、ソフトバンク間で和解された。
コーポレートガバナンスの専門家は、馬氏と一部の役員が株主以上に同社を統制するアリババ・パートナーシップの仕組みを問題視している。馬氏は、アリババ・パートナーシップによってアリババは金融市場からの圧力に対処することなく、より長期的な事業開発に専念できるとしている。
By JOE McDONALD AP Business Writer
Translated by Conyac