フカヒレ材料のアオザメ、国際取引規制の対象に 日本は規制に反対

Matthew D Potenski / The Pew Charitable Trusts via AP

 最強の海洋生物として恐れられるサメは、商業目的で漁獲されるほか、中国ではフカヒレスープの材料として好んで使われている。一部を保護する動きが進められているなか、絶滅が危ぶまれている12種超のサメの保護対策案に一部諸国が賛成を示した。

 8月25日、アオザメ科、シノノメサカタザメ科、サカタザメ科に属する18種の国際取引を扱った3つの対策案は、ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)を通過するために必要な3分の2以上の多数票を得てそれぞれ可決された。

「最速の海洋生物であると同時に、もっとも絶滅が危ぶまれているサメの保護に向け、私たちは今日、一歩前進しました」と、ピュー慈善信託でサメの保護活動を指揮するジェン・サワダ氏は言う。対策案では、対象のサメおよびエイの漁獲は禁止していない。しかしすべての取引をサステナブルな取引とすることを求めている。

 今回はまだ最終的な採択が行われたわけではないが、9月に開催の本会議での正式決定を控え、重要な出来事となった。

 投票の集計が終わると、自然保護派は拍手喝采し抱き合った。反対派には中国、アイスランド、日本、マレーシア、ニュージーランドなどさまざまな国が名を連ねた。アメリカは、アオザメ科の対策案には反対票を投じたが、残りの2つには支持を示した。

 今回の対策案が通ればCITESの活動が、海ではなく陸上の絶滅危惧動植物を保護するという当初の使命から逸脱してしまうなどという批判も様々あり、反対派は保護対策強化の訴えについて、科学的な裏付けはないと主張している。また、アオザメに関しては何百万匹も生存していることや、CITESの事務局でさえも保護対策に否定的であることが指摘されている。

 しかし擁護派は、毎年何千万頭ものサメが殺されているため、その個体数が激減していると反論している。今回の対策案を、サメの身の取引を規定するルールのなかでもっとも大きな意義を持つルールだとし、今こそこの対策を講じなければならないと訴えている。

 サメの専門家でガルフ・エラスモ・プロジェクトの主任科学者を務めるリマ・ジャバド氏は、CITESで提案された対策案で扱われているものをはじめ、多くの種が「絶滅の危険性がきわめて高い」種に分類されていると説明する。同氏がデータを確認したところ、シノノメサカタザメ科の個体数はこれまでに80%減少しているという。シノノメサカタザメ科は謎の多い種だが、トンガリサカタザメのように細長い三角形の頭をしており、東南アジア周辺の海やアラビア海、東アフリカの海洋に生息している。

 アオザメ科は世界最速のサメで、泳ぐスピードは最高で毎時約130キロメートルに達する。それでも、マグロ漁をしているトロール漁船の網にひっかかることが多々ある。

 日本をはじめ、大規模なサメ漁を行っている数ヶ国は、アオザメ科の保護対策案に反対している。

 農林水産省の漁業交渉官、諸貫秀樹氏は「日本は太古の昔から、生きた海洋資源に大きく依存してきました。われわれ日本にとっては、その海の恵みを余すところなく、サステナブルな方法で活用することがきわめて重要となっています」と述べている。諸貫氏は、CITES事務局でさえアオザメ科の保護対策案を却下すべきだと提言していると指摘した1人だ。

 CITESは、「地中海については不確実だが例外となる可能性はあるとして、各海洋の(アオザメ科の)個体数は30%の基準値を下回るほどには減少していないようだ。現時点ではまだ、今後も減少を続けるとは予想できない」と結論づけている。

 しかしジャバド氏によると、サメおよびエイの種のなかには、野生ではほとんど見かけなくなっているものもあり、科学者らが度々目にするのは、地元の魚市場で売られている姿だけだという。

 ジャバド氏は、「それらの種が漁師に捕獲されるのをただ見ているだけで、一体どうやって守ろうというのでしょうか」と訴え、いま対策を講じたとしても、サメの個体数が元に戻り始めるには何十年もかかるだろうと指摘する。同氏によるとサメやエイは、海では最上位の捕食動物であり、生態系のバランスを保つ役割を担っているため、個体数がさらに減少すればほかにも予期せぬ事態を招く恐れがある。

 科学者らは、海洋温暖化と気候変動がサメに悪影響を及ぼしているとしても、一部の種を絶滅に追いやる恐れがある要因は、フカヒレスープに使われていることだと警告を発している。ピュー慈善信託の調査によると、毎年6,300万~2億7,300万匹のサメが殺されており、その大半はフカヒレとしておもに香港で取引されている。

 乾燥フカヒレは、1キロで最高1,000ドルにもなる。フカヒレは、フカヒレスープによく利用される。フカヒレスープは幸運をもたらすといわれる中国の珍味で、だし汁にゼラチン質のヒレが使われているが、その歴史は10世紀の宋王朝にまで遡る。多くの場合、漁師らはサメがまだ生きている間にそのヒレをそぎ落とし、もだえ苦しむ体を海に捨てる。

 バスケットボールの元スター選手、ヤオ・ミン氏を始め、中国セレブたちがフカヒレスープを撤廃するよう飲食店に呼びかけているが、多くの店舗が応じようとしない。

 ロンドンの中華街にある海鮮レストランの前で、ウィルソン・クワン氏は、「フカヒレスープは中国の伝統なのに、なぜ食べることを止めなければならないのでしょう? サメにとってひどい仕打ちだという意見もありますが、サメだってほかの動物を殺しているじゃないですか」と話している。

 昨年、全世界で推定66件のサメによる不慮の襲撃事件が発生しており、うち4件で死者が出たと、同様の事件を調査しているフロリダ博物館が発表した。サメが人間に噛みつくことは非常にまれであり、そのような行為に及ぶのは人間をアシカなどの食糧と見間違えたケースが多い。

 サメの擁護派は、『ジョーズ』のような映画のせいで、社会がサメにありもしない悪い印象を抱くようになった結果、サメの保護に賛同を得ることが困難になってしまったと主張する。

 サメの保護活動を行っているイギリスの団体、バイト・バックのグラハム・バッキンガム氏は、「飲食店がイルカ料理を出せば、世間は激怒するでしょう。しかしサメはサメなのだから、まったく問題ないと思っているのです」と言う。

By MARIA CHENG and JAMEY KEATEN Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP