ボストン・マラソン「爆弾テロ」 浮かび上がる新たな課題

 死者3名、負傷者175名以上(そのうち20人以上が重傷。13人が手脚を切断)の大惨事となった、ボストン・マラソンの爆破事件。16日、オバマ大統領は事件について初めてテロと断定。「憎むべき、卑劣なテロ行為」と強く非難した。

【9.11から10年以上。油断はあったか?】
 フィナンシャル・タイムズ紙の報道によれば、事件当日の、超党派的な追悼と暴力非難のムードから一転、早くも共和党筋から現政府に対し、「油断と慢心が隙を生んだのではないか」との批判が上がり始めているという。
 共和党は、対テロ対策を大統領に牛耳られていることを苦々しく思ってきた経緯があるといわれ、リビアの米大使館襲撃事件における政府の対応も、厳しく糾弾してきた。
 大統領としては、9.11以来急増していた国防費を、アフガニスタンやイラクからの撤退によって削減し、経済立て直しの一手として、歳出削減に舵を切った矢先に浴びた非難となった。

 しかし、当日の備えは必要十分なレベルだったと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は伝えている。対テロ対策も取られており、麻薬探知犬も導入されていた。そのため、今回の爆弾がなぜその「警戒網」を、まんまとすり抜けたのかに注目が集まっているという。

【注目される「圧力鍋爆弾」】
 今回「圧力鍋爆弾」が使われたことも、その理由の1つだと指摘されている。この爆弾は、2011年7月、テキサス州フォートフッドでの、ナセル・ジェイソン・アブド上等兵の爆破未遂事件で使われたものと同型だという。アル・カイダが、インターネットで「家庭にあるもので爆弾を作る方法」として紹介した経緯もあり、10年ほど前から警鐘が鳴らされていた。アブド上等兵の爆破未遂事件当時、FBIの専門家は、約30分で組立が可能だと証言していたという。

 こうした「簡易」爆弾を長距離運搬すれば、途中で爆発する危険が避けられないこともあり、近場のホテルや短期賃貸アパートで組み立てられた可能性があるとして、調査が進められている模様だ。
 宿泊名簿や航空機関の乗客名簿も調べられているが、目下、犯人特定につながる手がかりはつかめていない。
アルカイダが指南した可能性があるといっても、誰にでも作れる爆弾であるため、それを根拠に犯人とすることはできない。また、どのテロ組織からも、犯行を匂わせる発言は出ていない模様だ。

【テロにはどう対応するべきか】
 今回の事件によって、再び高まる「テロへの備え」を求める声。しかし、専門家は単純な防備の増強を疑問視していると、ニューヨーク・タイムズ紙は指摘している。2001年9月11日以降、テロ対策は幾重にも厳重になり、確かに、その効果が現れているようにも思われた。
 しかし、最も権威のある世界のテロリズムに関するデータベースによれば、極右から極左までさまざまなテロリストが活動を激化させていた1970年代以降、テロ攻撃の数も被害者数も、すでに減少傾向にあったのだという。

 つまり、今回の事件は「油断」というよりも、「テロを防ぎきることの難しさ」を改めて浮き彫りにしたと専門家は見ているようだ。マラソンというイベントは、長距離・長時間にわたること、標的となりうる人々が散開することなどから、特に保安が難しいという。過去にも北アイルランド、バーレーン、パキスタン、スリランカなどで暴力にさらされたこともある。

 犯人に対しては、オバマ大統領が「必ず裁きを受けさせる」と声を荒らげ、捜査機関も「地球の果てまでも追い詰める」と力を込めている。しかし、統計は、犯人確保の難しさを明らかにしている。専門家によれば、テロ事件は、世界中の半数、そして米国内の三分の一が、未解決のままなのだという。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、テロ対策における格言を紹介している。「保安員は、常に万全でなければならない。テロリストはたった一回、うまくやればよい」。

 フィナンシャル・タイムズ紙が、大掛かりな防備よりも、情報重視の捜査の大切さを指摘したテロ対策。悲劇を避けるためにどうしたらよいのか、改めて問われている。

Text by NewSphere 編集部