「遺体の写真載せるな」欧米のナイロビテロ報道に、現地が強く反発した理由
今月15日、現地時間の午後3時過ぎ、ケニアの首都ナイロビにある5つ星ホテル「デュシットD2」やオフィスなどが入る複合施設が武装集団に襲撃されるというテロ事件が発生した。警察や特殊部隊が対応し、発生から19時間に及んだ制圧作戦の末、実行犯の5名は全員殺害されたとケニア政府は発表した。報道などによると、ソマリア系を含むケニア人19名と米国人1名、英国人1名が犠牲となった。
事件発生から収束まで時間がかかるなか、現場で巻き込まれた被害者や現場のジャーナリストらは、ツイッター上などでの発信を続けた。被害者や遺体の残忍な写真も多く流出していたようだ。米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT紙)やいくつかの欧州メディアが遺体の写真を公開したことで、主にツイッター上でケニア人からの批判が殺到。NYT紙に対して写真の取り下げを求める署名活動もはじまった。
なぜ、今回のテロ事件報道においてNYT紙は批判されたのか。今回の一連の報道から、テロ報道やアフリカに関する報道のあり方を考察する。
◆テロ報道:スピードとセンセーション
筆者は事件発生当時ナイロビに滞在中で、現場の複合施設があるウェストランド地区の建物内の、爆撃音と銃声がはっきりと耳にできる距離におり、現場からの黒煙も目視できた。直接的な影響はなかったため、冷静に情報収集や対応ができた。インターネットやソーシャルメディアの普及以後、災害時の情報発信や収集のスピードが上がったことは疑いない。メディアも個人も、いかに早く、かつセンセーショナルな発信ができるかということを優先事項にしているようだ。同時にその内容の質に関しては、情報の発信側にも受信側にも、より慎重な判断が求められる。
今回、筆者はフェイスブックやツイッター、警察や大使館などの行政組織からの発信、BBCアフリカ版のライブアップデート、Citizen TVなど現地のニュース番組から情報を収集していた。爆弾テロと銃撃があったことはすぐにわかり、ほどなくして、イスラム過激派組織アルシャバブが犯行声明を出したことが判明したが、テレビ報道では特に新たな情報がないなか、現場のレポーターが必死に何かを伝えようとする状況が続いた。政府や警察の対応を評価・批判するような時期尚早なコメントもあった。
一方、ツイッターなど、インターネット上では様々な情報が飛び交った。メッセージアプリのWhatsAppグループなどのやりとりも活発化していたようだ。安否確認はもちろん重要だが、事件解決には関係のない、もしくは解決に悪影響を及ぼすような情報が流れていた。警察は、犯人に有利な情報を与えることを懸念し、マスメディアなどを通じて、事件現場の写真をSNSなどに投稿しないように呼びかけた。こうした状況のなか起こったのが、NYT紙の写真報道とそれに対する一連の批判だ。