トランプ氏、ブッシュ元大統領の葬儀で孤立 歴代大統領と微妙な関係
トランプ大統領の孤立状態が浮き彫りとなった。
ワシントンで執り行われたジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の葬儀は、歴代大統領が一堂に会する滅多にない機会となったが、トランプ大統領とメラニア夫人が到着すると、バラク・オバマ氏、ビル・クリントン氏、ジミー・カーター氏が、婦人らと共に並んだ最前列の席には、不穏な空気が流れた。
歴代の大統領が集うこととなった12月5日、トランプ氏がその輪に形ばかりしか加わっていないことが見てとれ、現職の大統領とその先任者の微妙な関係性が浮き彫りとなった。葬儀自体は、亡くなった大統領を偲ぶ温かな式典となったが、式に出席した大統領たちの関係性は、実に冷ややかなものだった。
トランプ氏は、ワシントン大聖堂に用意された席に着く前、オバマ夫妻に握手を申し出たが、他の出席者に挨拶することはなかった。ヒラリー・クリントン氏は、メラニア・トランプ氏に会釈をしたものの、それきり前を向いてしまった。
元大統領5名のうち最後に到着したのは、ジョージ・W・ブッシュ氏で、4組の夫婦全員と握手し、ミシェル・オバマ氏とは冗談を交え談笑しながら、彼女の手の中に何かを忍ばせたようだった。ブッシュ氏はその後、歴代大統領が並ぶ席から通路を隔てた向かいの席に、家族と共に着席した。
トランプ氏との不和は、ある程度は予想されていたものだ。
トランプ氏は就任式を終えて以降、先任の大統領たちとほとんど接触したがらなかった。これに対し、元大統領らはトランプ氏を冷たくあしらってきた。ドナルド・トランプ氏が選挙戦に勝利してからというもの、堅実な大統領経験者らの間に亀裂が生じていたが、ブッシュ一族は数ヶ月前、政策や気質の違いがあれど、トランプ大統領には国葬に出席して欲しいという故・ブッシュ元大統領の意向をホワイトハウスに明かしていた。
式典の弔辞では、歴史学者のジョン・ミー氏が故・ブッシュ元大統領を称える中で、「真実を語ること、人を責めないこと、強くあること、ベストを尽くすこと、懸命に挑むこと、寛容であること、最後までやり遂げること」という彼の人生の信条を語るなど、トランプ氏の統率力との違いを言外に示唆する場面が時折みられた。さらにジョージ・W・ブッシュ氏は、父について「人をからかったり挑発したりすることもあったかもしれないが、そこに悪意はなかった」と述べた。
故・ブッシュ元大統領は、近年の大統領経験者のまとめ役となった人物であり、好戦的なキャンペーンや党の方針を越え、貴重な職務を務めた気難しい人々をまとめあげた。
大統領としてのトランプ氏はトラブルを起こしがちだが、その反面、ジョージ・ブッシュ氏の葬儀にはおとなしく出席しようとしていた。トランプ氏は、民主党出身の前大統領を厳しく批判した選挙キャンペーンの結果、大統領に就任し、かつてブッシュ親子が権力を振るった共和党を取り込んだ。大統領という代々受け継がれてきた繋がりがあっても、トランプ氏に関しては、歴代大統領の誰もが様々な方法で不快感を示してきた。
ライス大学で歴史を研究するダグラス・ブリンクリー教授は、「両党の元大統領が現職の大統領に不快感を示すというのは異例のことだが、それが今まさに起こっている」と言う。
トランプ氏とオバマ氏の握手は、現職大統領とひとつ前の大統領が2017年の大統領就任式以降初めて直接交流する瞬間となった。就任式以降、トランプ氏が民主党のクリントン氏や、オバマ氏と話をしたことは一度もなかった。
トランプ氏は、ジョージ・W・ブッシュ氏とはブレット・カバノー氏の最高裁判事就任を承認する過程で対話している。共和党出身のブッシュ元大統領から、元補佐官のために働きかけがあったためだ。民主党のカーター氏は、トランプ氏と直に接触していたかは不明だが、ホワイトハウスの職員から北朝鮮についての情報を聞いていた。
元大統領たちは、年齢を重ねているが健康状態もよく、今もなお影響力を発揮できるため、その活動期間はこれまで以上に長くなっており、今もなお国民の前に姿を現している。
ブリンクリー氏によると、歴代大統領の多くは、前任者と良い関係を築いてきた。「ビル・クリントン氏は、リチャード・ニクソン氏と交流し、ロシアに関するアドバイスを求めた」と同氏は言う。「ハリー・トルーマン氏は、ハーバート・フーヴァー氏から多くのことを学んだ。例を挙げればきりがない」
ブリンクリー氏は、前任者との関係は大統領によって様々で、関係が冷ややかなこともあったとし、例えば「フランクリン・ルーズベルト氏は、ハーバート・フーヴァー氏と一度も話したことがなかった」と指摘する。
過去の大統領はそれぞれに仕事があり、慈善事業へも参加しながら、講演会を行うこともあるなど忙しく、交流する機会は少ない。そのため今回の葬儀は、彼らが集まる絶好の機会となった。大統領という立場から、彼らはお互いに関する発言には慎重になりがちだ。しかしトランプ氏については、存命の大統領経験者の誰もが辛辣な意見を述べている。
オバマ氏は、9月に行ったスピーチで、トランプ氏の名前を出すことはなかったが、ホワイトハウスの「クレイジーな人物」と言って酷評した。ジョージ・W・ブッシュ氏は昨年、大統領としてのトランプ氏について、名指しはしなかったものの、多くの課題を挙げ、同氏の「偏屈さは行き過ぎて」おり、国の政策は「陰謀を含んだ意見や、でっち上げに対する脆弱性が高くなっているようだ」と警告を発した。
カーター氏は夏に、ワシントン・ポスト紙に対し、トランプ氏が大統領職に就いていることは「災害だ」と述べた。2016年の大統領選挙戦で、妻のヒラリー・クリントン氏がトランプ氏に敗北するという悲劇に見舞われたクリントン氏は、妻の衝撃的な敗北の後、ニューヨーク州の週刊誌で、トランプ氏の「知識は乏しい」と発言した。
ジョージ・ブッシュ元大統領でさえ、トランプ氏に対する厳しい見方を示すことがあった。昨年発表されたマーク・K・アップデグローブ氏の著書『最近の共和党員(The Last Republicans)』で、ジョージ・ブッシュ氏はトランプ氏を「ほら吹き」だと述べている。同氏はまた、2016年の選挙ではクリントン氏に投票したと明かした。一方、ジョージ・W・ブッシュ氏は、「上記の誰にも」投票しなかったと発言している。
大統領経験者がトランプ氏に対し、もう少し友好的な感情を示した場面もあった。オバマ氏は、トランプ氏の衝撃的な勝利の後、ホワイトハウスのローズ・ガーデンで、次期大統領を「応援する」と述べた。2017年、カーター氏はニューヨーク・タイムズ紙で、メディアの対応がトランプに対しては、他の大統領よりも厳しいと発言している。またクリントン氏は、6月、アメリカは北朝鮮との交渉が成功するように、トランプ氏を応援すべきだと述べた。
トランプ大統領は、過去の国葬の場においてそれに相応しい発言をしようとして苦戦してきたが、ブッシュ元大統領の葬儀には特に注意を払って臨んでおり、発言は柔らかく、ブッシュ一族が葬儀にあたって必要なものをすべて取りそろえるよう手配した。12月4日、メラニア・トランプ大統領夫人は、ローラ・ブッシュ氏とその家族をホワイトハウスに迎え、クリスマスの飾り付けを案内して回った。その後トランプ夫妻は、ブッシュ一家と共にブレアハウスを訪問した。
By CATHERINE LUCEY and ZEKE MILLER, Associated Press
Translated by t.sato via Conyac