トランプ本の「ビンラディン予言」は本当か? 事実検証

Al-Jazeera via APTN

 ウサマ・ビンラディンの出現を公言していたというドナルド・トランプ大統領は、選挙期間中から繰り返し、自身をテロ時代のポール・リビア(訳注:アメリカ独立戦争においてイギリス軍の接近を監視し、警告したとされる愛国者)だと言い表している。トランプ氏の発言は予言とは言い難いものである。

 11月19日にトランプ氏がツイートした、ビンラディンについての内容はまんざら嘘ばかりでもない。「世界貿易センターが爆破される直前、私は著書の中で奴について言及していた」というものだ。

 しかし著書の中では、アメリカの安全保障にとって数ある脅威の1つとしてアルカイダの指導者を示したのみで、付随的にビンラディンについて触れていたにすぎない。トランプ氏の著書「The America We Deserve (我々にふさわしいアメリカ)」は、2001年9月11日に起きたアルカイダによるアメリカへの壊滅的なテロ攻撃より1年半以上前に出版されたものであり、直前ではない。

 トランプ氏が再度この件を話題にした背景には、ウィリアム・マクレイヴン退役海軍大将から繰り返し受ける批判を受けているためである。マクレイヴン氏は、トランプ氏によるニュースメディアへの攻撃について「これまでに経験したなかで最大の民主主義への脅威」であると糾弾してきた。同氏は2011年、アメリカ国防総省の統合特殊作戦コマンド司令官として、パキスタンに潜むビンラディンの奇襲作戦を指揮した人物である。

 トランプ氏は、11月中旬に放映されたFOXニュースのインタビューにおいて、マクレイヴン氏が「ヒラリー・クリントンの支援者、オバマの支援者」であると非難した。マクレイヴン氏は、2016年には誰のことも支持していなかったと述べ、かつて仕えたことのあるジョージ・W・ブッシュ前大統領やバラク・オバマ前大統領のファンであるとCNNに語った。さらに、「党派にかかわらず、職務の品位を守り、また困難なときに国をまとめるために職務を果たすすべての大統領を称賛する」と明言した。

 トランプ氏はこのようにツイートした。「言うまでもないが、ウサマ・ビンラディンをもっと早く捕らえるべきだった。世界貿易センターへのテロ直前に、私は著書のなかで奴について言及していたのだ。クリントン大統領が撃ち損ねたことは周知の通り。わが国はパキスタンに数十億ドルも支払ったのに、奴がそこで暮らしていると教えてもらったことなど一度もない。なんて間抜けなことだ!」

 事実検証を行ったところ、2000年に出版されたトランプ氏の著書「The America We Deserve (我々にふさわしいアメリカ)」では、ビンラディンに関して、独創的また洞察力のある言及はなされていない。ビル・クリントン前大統領による、アメリカの安全保障に対する無責任な対応を批判するなかで、以下のような記述がある。「ある日聞いた話だ。ウサマ・ビンラディンという住所不定の謎に包まれた人物がアメリカにとって最大の敵となり、米軍のジェット戦闘機がアフガニスタンの彼の拠点を破壊する。彼はどこかの岩の陰に隠れ、時代がいくつか巡ったあと、新たな敵、新たな脅威となって姿を現す」

 アルカイダによるケニアとタンザニアのアメリカ大使館爆撃を受け、1998年、クリントン前大統領はアフガニスタンとスーダンへの攻撃を命じた。トランプ氏の著書には、この報復攻撃を継続させるために、アメリカがビンラディンやアルカイダにさらなる措置を講じることについての提言はなかった。アメリカの攻撃は、ビンラディンの組織網を崩壊し、神経ガスの原料製造に関わるスーダンの工場など、アルカイダの経済基盤となる施設を破壊することが目的だった。ビンラディンを当時殺害できなかったという意味においては「失敗」であり、その3年後、アルカイダは9.11テロを成功させた。

 選挙期間中、トランプ氏は予言者であることについてさらに意気揚々と語った。著書のなかでビンラディンについて「奴を殺したほうがいい」と記述したと述べたが、そのような記述はない。その上、トランプ氏は「誰もウサマ・ビンラディンについてよく知らない」頃に「奴が戻ってくることを予測した」という。ビンラディンは、9.11テロのずっと前には、CIAや国家安全保障に関わる他組織、専門家や一般国民によく知られた存在だった。2001年のテロ攻撃を防ぐために、クリントン前大統領やその後任のブッシュ前大統領はアルカイダへの対抗措置をもっと講じることができたのではないか、という議論は残る。

 トランプ氏の著書では、テロについての節で、アメリカは1993年の世界貿易センター爆弾事件が色あせて見えるほどのテロ攻撃を受ける可能性がある、ということが正確に予測されていた。これは当時広く抱かれていた懸念であり、トランプ氏も「賢明な分析者であればこの可能性を否定しない」と記述している。トランプ氏は、その脅威を明確にアルカイダに結びつけることはなく、また、スーツケースに入った核兵器や炭そ菌のような、小型化された大量破壊兵器を使用した攻撃が起こり得るという考えにも至らなかった。

By CALVIN WOODWARD, Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP