パプアニューギニアに重くのしかるAPEC開催の負担 「国民は死につつある」
30年間にわたり貧困に対する救済策として自由貿易を促進した後、アメリカや中国を含むAPEC加盟国の指導者たちは、贅の限りを尽くした年次会合を最も経済的な余裕のない国で開催した。
太平洋に浮かぶパプアニューギニアは多くの山に囲まれ、何百もの部族が暮らす貧しい国だ。陸路は未だほとんど整備されておらず、暴力の爪跡が至るところに残っている。同国は世界中の首脳がAPECサミットのために集結することで注目を浴び、投資家の目に留まることを期待していた。
しかし、APECサミットに対する巨額の出費は、国民の激しい非難を呼んだ。パプアニューギニア政府の予算は危機的状況に陥っており、基本的な医薬品が欠乏している。その上、少数の国を除き既に撲滅したとされるポリオが国内で再流行しているのだ。2015年に国際通貨基金は、サミット開催資金を十分に調達し、関連する会合を1年にわたって主催するために10億ドルの費用がかかると見積もった。
パプアニューギニアの最大の援助国であり、かつて植民地として支配していたオーストラリアおよび中国や他の国々はサミット開催の経費を一部肩代わりしたが、当局者は批評家たちに対し、出費の正当性を強く主張せざるをえなかった。
なかでも、多くの会議が平行して行われる会場間を移動する際、各国の首脳らを迅速に送迎するため、政府が40台もの高級車マセラティを輸入したことは国民を驚嘆させた。当局者は、政府はサミット終了後に車両を民間に売却してこの出費を回収する予定であるとしたが、この釈明が政府の利権構造に対する疑惑と不信の口火を切ることとなった。
一方で、中国政府は首都ポートモレスビーの「独立大通り」建設のために巨額の資金を捻出した。世界銀行によると、失業率が非常に高く、「ラスカル」として知られる犯罪組織が横行しているポートモレスビーは世界でも有数の治安の悪い都市であるという。
APECサミットのために1,900万ドルの費用が投じられ、要人向けのターミナルが都市の空港に建設された。各国の指導者が集う「APECハウス」の建設には、パプアニューギニアへの石油供給を一手に担う石油・ガス開発会社のオイルサーチが税額控除と引き換えに資金を提供した。こうして政府は性急な出費を免れることができたが、その代わり、将来的に得られたであろう税収を切り崩すことになった。
活動家であり作家でもあるマーティン・ナモロング氏は、「政府は、正面玄関を華美に飾り立てるのではなく、疲弊した裏庭の修繕に資金を投じるべきだった。わが国は早急に対処すべき健康、教育、そしてインフラの不備に関する問題を抱えている。
「多くの教師に賃金が支払われておらず、病院では医薬品が不足している。世界のエリートたちが明日のことなど考えず楽しいパーティーに興じている間に、パプアニューギニアの一般市民は惨めな生活を強いられているのだ」と述べた。
首脳らが開催地をテーマにしたお揃いのTシャツを着て微笑む記念写真が撮影される以外に、APECサミットという一週間にわたる楽しげな懇談会が何を生み出したのかは定かではない。不可解なサミット用語を引き合いに出すとすれば、今回の会議は「包摂的な機会の活用、デジタル未来の受容」を議論する場となった。
APECのアラン・ボラード事務局長は、貿易摩擦とグローバル化に対する広範な反発をめぐる米中関係の緊張によって、今回の会議は波乱含みの様相を呈していると語った。貿易と人々の移動は自由であればあるほど万人に良いとするグローバル化の考えは、過去40年間にわたり西側が主導する支配的なイデオロギーであった。
「今年は、特に米中二国間の貿易摩擦が顕著に発生し、APECはあくまで全員が合意する発議を行うのみに過ぎないという意味で、交渉のテーブルにつく各国の状況は一層複雑になっている」とボラード事務局長は語った。
多数の外国人や地元のエリートたちが高い壁や有刺鉄線で守られた家に住む都市であるポートモレスビーは、12,000人以上のサミット参加者を迎えた。
ホテル不足のため、多くの人々はポートモレスビー港に停泊した3隻のクルーズ船に宿泊し、今回のサミットのために輸入された数百台の車を使ったシャトルサービスを利用することとなった。街では、大勢の警察官や兵士が警戒にあたった。さらに空軍の軍用機や海軍の哨戒艇、特殊部隊や他の任務を負った兵士も出動し、オーストラリアやニュージーランドからも派遣された警官や軍隊も警備の支援を行った。
オーストラリアのメディア各社は、オーストラリア政府はAPECサミットの安全保障やその他の支援のために1億ドル以上を投じると報じた。オーストラリアの首相官邸は具体的な金額について明らかにすることを避けたが、今回の支援を「長期にわたる協力関係の延長上にあるもの」だと位置付けた。
オーストラリアを拠点とするシンクタンクであるローイー・インスティテュートのパプアニューギニア専門員であるジョナサン・プライク氏は、「セキュリティチェックは非常に厳格なものになる。サミットの会期中はポートモレスビーの治安が最も良くなる期間だろう」と語った。
そのようなセキュリティ体制にもかかわらず、アメリカのマイク・ペンス副大統領と側近たちは、毎日、オーストラリアのクイーンズランド北部から飛行機を使ってパプアニューギニアの会場へ赴いた。
首都ポートモレスビーは一見美しく彩られはしたものの、2018年はパプアニューギニアで新たな部族間の抗争と政治的な暴行が続いた1年となった。
今月初旬、ポートモレスビーから300km以上離れた海岸沿いの町であるアロタウでは、APECサミットに向かおうとした警察が交通事故を起こし、女性と子供が死亡した。カトリック教会のローランド・サントス司教は、この一件で一部のアロタウの住民が暴徒化したと話す。同司教によると、首都ポートモレスビーから警察の増援部隊が到着した時に銃撃戦が勃発したという。プライク氏は、母国から離れてパプアニューギニアで暮らす中国人の勢力が大きくなり、経済的な緊張を助長した結果、抗議行動や暴動を招いたと語る。
17年間パプアニューギニアで暮らしているフィリピン出身のサントス司教は、「教育や医療に投じられる資金は決して多くない。APECサミットの開催で多くの人々が影響を受けた」と語る。
パプアニューギニアのカトリック司教協議会は、基本的なサービスが極度の不足に陥っているにもかかわらず、政府が世界中の指導者のために巨額をつぎ込んで首都ポートモレスビーの体裁を繕ったことを激しく非難した。
同協議会の代表を務めるローカス・タタマイ司教は、「サミットに参加する首脳らを楽しませ、我が国が裕福で豊かな国力を誇っているかのように見せかけるため、政府は限りある国の資本を惜しげもなく投じてしまった。これに対し、国民の誰もが大きな懸念を抱いている」と述べた。
そして同司教は、「パプアニューギニアの国民はAPECサミット成功のために苦しみ、そして死につつある惨状だ」と結んだ。
By STEPHEN WRIGHT and JIM GOMEZ, Associated Press
Translated by ka28310 via Conyac