アルジェリア人質事件の黒幕「神出鬼没の誘拐王」は、本当に死んだのか?
チャド軍は2日、マリ北東部イフォガス山中の武装勢力拠点を「完全に破壊」し、1月のアルジェリア人質事件の首謀者とされる、モフタール・ベルモフタール氏を含む数人を殺害したと発表した。チャド軍はフランス軍らとともに、マリ領内でアルカイダ系イスラム武装勢力「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」掃討作戦を行っている。
チャド軍はまた前日にも、AQIMの幹部である、アブドルハミド・アブーザイド氏を殺害したと発表していた。
ただし、ベルモフタール氏の死について、チャドの発表以外に事実関係を確認したという国はない。専門家によれば、ベルモフタール氏は極めて「神出鬼没」の人物であり、すでに過去5回、死亡報道がなされている。今回も、仲間を引き連れて目立つ行動をしていたとは考えにくいとの疑問が挙がっている。
さらに、ベルモフタール氏は身代金目的の外国人誘拐や麻薬・タバコ等の密売で名を上げてきた人物で、元来戦闘部門とは距離を置いていたという。昨年には自らの組織を立ち上げるため、標的となっているAQIMを離れていたはずだとも指摘されている。
一方アブーザイド氏については、現在DNA鑑定中であるという。中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、両者は仲が悪かったらしい。
フランスやアメリカの追跡をかいくぐってきた両氏をチャド軍が仕留めたのであれば、驚きに値するとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じた。ただ同紙は、チャド自体は最貧国の一つでありながら、その軍はアフリカ諸国の中でも質が高いとも報じている。背景として、共産陣営や隣国リビアのカダフィ政権への防波堤として、80年代からアメリカやフランスの多大な軍事援助を受けていたこと、リビアやスーダン相手の実戦経験もあることが挙げられている。
チャドとマリは隣接しておらず、1000kmほども離れているが、デビ大統領はマリ介入に積極的である。宣伝できる戦果を欲しているとの見方もある。
なお1月のアルジェリア人質事件では、日本人を含む37人の外国人人質と、30人ほどのAQIM メンバーが死亡した。AQIMにはいまだ、7人のフランス人人質が拘留されていると見られている。