チュニジア首相が辞任 今後の政権運営への影響は?
チュニジアのジェバリ首相は19日、テレビ演説で辞任を発表した。「実務家内閣」組閣の試みが失敗に終わったと述べ、かねてより公言していた「首相の座を賭する」という自らの誓いを貫いた形だ。
「アラブの春」の先陣を切って民主化を推し進めてきたチュニジアは、西側諸国から民主化を目指す同地域の諸国の「モデル」的存在と目されてきた。しかし、2月6日の野党党首ベルイード氏暗殺事件を境に、潜在していた現政権への不信や政治不安が一気に噴出。大規模な反政府デモが続発し、政治的・経済的に危機的状況に陥った。
これに対し、最大与党アンナハダ党の穏健派であるジェバリ首相が、かねてからの「無個性」「官僚的」という評価を覆す大胆な策を発表し、周囲を驚かせたという。それが、超党派実務家内閣の暫定的な組閣と、早々の選挙実施案だった。
野党や西側諸国からは歓迎の声が上がったが、党内からは「選挙によって選ばれた政党が政治を担うという正当な仕組みをないがしろにする」と反発が起きたと報じられている。ジャバリ首相は「裏切り者」だという声すら挙がったという。
ジャバリ首相は、「国内の政情不安の責任をアンナハダ党のみが被るのではなく、共有するため」と説得したものの、70%の反対で否決された。フィナンシャル・タイムズ紙によれば、反対の急先鋒である党首ガンヌーシ氏を父に持つ党幹部は、「ジェバリ氏はまずは党に諮り合意を求めるべきだった」と述べ、独断は党への侮辱という見解を表している。
一方、内部事情通からは、ジャバリ氏の提案を「党員よりも国民の立場で」国益を優先した英断だと評価する声もあるという。今後、大統領が誰を新首相に任命するかが注目されるが、大方はジャバリ氏の再任を予想している様子だ。大統領は20日にもガンヌーシ党首と面談し、「お伺い」を立てる予定だとされる。ただ、一旦露呈した溝を埋めるのは困難であるとの見方も強い。
またジャバリ氏も、政権運営を担う条件として、「制憲議会による憲法起草」と「新たな選挙」を挙げていると報じられている。
なお、ガンヌーシ氏と世俗派野党は、内務省・法務省など選挙に影響を及ぼす部門の分担について水面下で妥協点を模索したものの、合意に届かなかったとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じた。
さらに、ニューヨーク・タイムズ紙は、今回の実務家内閣組閣の失敗が、チュニジアが現在IMFに対して交渉中の17億8000万ドルの融資をはじめ、国内の安定を取り戻す努力をむしばむものだとする複数の国会議員の談を紹介した。
実際、格付け機関のS&Pは、政治的混乱を理由に同国債の格付けを下げたという。チュニジアの不透明で困難な先行きを改めて浮き彫りにした形だ。