ストリーミングの巨人 ネットフリックス成功の秘密が命取りになる可能性

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著:Martin Frieslランカスター大学、Senior Lecturer in Strategic Management)

 最近発表されたネットフリックスの中間決算は、マーケットに失望を与えた。ストリーミングの巨人ともいえる同社の株価は一晩で13%値下がりした。3ヵ月間の新規契約者数が500万人で、世界の契約者合計が約1億3,000万人になったという発表に対する株価の反応がこれであるなら、明らかに何か理由がある。

 この1年、同社の株価は158米ドルから396米ドルへと高騰しS&P500指数の動きを上回っていた。この背景には、4月の好調な四半期決算発表があり、驚異的な成長路線の継続についてアナリストや投資家に期待を持たせていた。ネットフリックスはその時点で、新規契約者をアメリカ国内で120万人、海外で500万人と予想した。この数字でさえ保守的とみなすアナリストもおり、野心的な時価総額を正当化するために高めの成長率を見通した。

 しかし、今回の最新決算が明らかになる少し前にも、忍び寄る注意喚起がなされていた。マッコーリー銀行のアナリストなどは、「予想が実勢を超えている」と指摘していた。ネットフリックスの新規契約者数はそれぞれアメリカ国内で70万人、海外で450万人の増加予想に届かなかった。その要因とされたのは、アマゾン、フールー、エイチビーオーといった企業との熾烈な競争だ。

 ネットフリックスは1997年にDVDの販売・レンタル会社として設立されてから、世界のストリーミングサービス大手に企業変革するという目覚ましい業績を残した。ハウス・オブ・カード 野望の階段オレンジ・イズ・ニュー・ブラックストレンジャー・シングス 未知の世界といった受賞コンテンツの主要な制作者になることで、競合との差別化を図ってきた。

 ネットフリックスの任務は、契約者の視聴パターンや嗜好を深く理解するところにある。これにより競争環境下でも値上げすることができ、巨大な契約者ベースでの資本化が可能となった。今後数年間の目標は、放映されるテレビ番組や映画の全ライブラリの半分をネットフリックス専用にすることだ。2018年だけでも、最新コンテンツに120~130億米ドルを費やすとみられており、以前の計画の80億米ドルを上回っている

 これにより、世界の契約者数で同社はエイチビーオーに次ぐ2番手のサービスとなった(エイチビーオーの全契約者1億4,200万人の大半は米国在住で、ケーブルテレビでチャンネル・パッケージを購入している)。ネットフリックスによるストリーミングへのアプローチは、市場にひしめく多くのプレーヤーとは異なる。以下では、競合他社を大まかに3分類する:バンドラー、放送局、コンテンツの巨人。

◆1. バンドラー
 アマゾンのストリーミングサービスは、プライムサービスに「バンドル」、つまり内包される。これにより同社の個人顧客は格安オムツから急ぎの配達に至るまで、幅広いメリットを享受できる。製品やサービスを複雑にバンドルさせて動画や音楽のストリーミングを提供するのは、競争上、重要な意味を持つ。

 アマゾンが他のサービスで十分な採算を確保している状況下では、ストリーミングサービスを赤字運営できることを意味する。そのためアマゾンは低い契約料を提示して、他のストリーミング・プロバイダーに競争圧力を容易にかけられる。アマゾンプライムの契約者数は世界で約1億人にのぼり、ネットフリックスに最も近いストリーミングの競合となっている。

◆2. 放送局
 大半の放送局は、既存のテレビやケーブルサービスのアドオンとしてストリーミングを提供している。BBC iPlayerなど消費者が無料で利用できるサービスやHBO Nowのように契約モデルの一部として提供されるサービスがある。

 ネットフリックスと同様に、こうした企業もユニークなコンテンツを提供することで競争している。目的が公共サービスであれ、広告主の利益であれ、無料でサービスを提供する放送局にとって、ストリーミングはオーディエンスの規模を最大化する手段だ。エイチビーオーのような企業にとっては、既存のケーブルテレビ・サービスでは獲得することのできなかった顧客セグメントに接触する方法でもある。

◆3. コンテンツの巨人
 ストリーミングサービスの市場は将来、プロダクションの巨人が参入することで競争が激化するだろう。私が特に気にしているのはディズニーだ。同社は今秋、独自のストリーミングサービスのローンチに向け準備を進めている。

 すでにストリーミング・プロバイダーは、フローズンやトイストーリーといったヒット作のフランチャイズ会社に対して収入の相当部分を支払っている。しかしディズニーは、うまく立ち回る決意を固めた。自社サービスをローンチすれば、ネットフリックスへの独占的な動画の提供を打ち切るだろう。これにスターウォーズやマーヴェルの映画などが含まれるかは明らかにされていないが、ディズニーの動きがネットフリックスにとって大打撃となるのは明らかだ。

◆今後の見通し
 ライセンス供与されたコンテンツではなくユニークなコンテンツに賭けるというネットフリックスの方針は、この文脈でいくと正しい方向のようにみえる。しかし、厳しい未来が同社を待ち受けている。アップルも、今年中にストリーミングサービスをローンチする予定があり、オリジナルコンテンツの準備段階で10億米ドル超を支出してきた。スポティファイとフールーも最近、共同で動画と音楽を組み合わせたストリーミングサービスを提供すると発表した。

 ネットフリックス側からみると、すでに全世帯の約半分と契約していることもあり、コアとなるアメリカ市場では成長の余地が乏しいことは明らかだ。そのため、それぞれ2,000万人ほどの契約者しかいないケーブルテレビのコムキャストと衛星テレビのディレクTVが弱体化している。ネットフリックスはすでに、同社事業の海外での訴求力を最大化しようと、現地語での番組制作に注力してきた。これはある意味で賞賛できるが、訴求力を高められない可能性がある地域コンテンツへの投資は、収益性の点で問題があるかもしれない。

 ネットフリックスは別の方法で契約者ベースを増加させようと、新たなルートで市場にアクセスする実験を開始している。その一つは、コムキャストとの協業により「バンドラー」に参画することである。コムキャスト有料テレビ契約者への追加的な娯楽としてネットフリックスのサービスが提供されている。ネットフリックスは最近、イギリスとヨーロッパでBSkyBとも同様の契約を交わした。

 同時に、ネットフリックスによる現在の成功の源は、未来に向けた大きな課題を生み出した。急速に変化し、絶えずイノベーションが求められる市場にあって、優れたコンテンツで自社を差別化することに同社は成功してきた。1クール分の連続ドラマなどを一気見する「ビンジウォッチング」のできる革新的な番組を提供してくれるだろうと、契約者は期待している。同社はいま、コンテンツ製作費用が高い一方で、コンテンツが短期で消費されるという悪循環に陥っている可能性がある。その地位を防衛したいのであれば、大規模かつ最新のストーリーを発見し続け、ユーザーがそれを必ず視聴しなくてはならないという状況に変化させていくことが求められるだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation