英国で販売1位になった中国SUV 「レンジローバー似」が売れた理由

Sue Thatcher / Shutterstock.com

 イギリスの新車市場で、中国メーカーのSUVが存在感を急速に高めている。

 9月の新車販売で首位に立ったのは、中国・奇瑞汽車(チェリー)傘下のブランド「Jaecoo(ジェクー)」が販売するSUV「Jaecoo 7(ジェクー7)」だった。英国自動車工業会(SMMT)によると、1万814台が登録され、今年3月に続いて2度目の月間首位となった。

 しかも、これは1車種だけのヒットではない。中国ブランド全体もイギリスで急速にシェアを伸ばしている。

◆「Temu版レンジローバー」が販売首位に
 ジェクー7は2025年にイギリスで発売されたSUVで、ガソリン車とプラグインハイブリッド車(PHEV)が用意されている。価格は約3万ポンド(約630万円)からだ。

 現地では、外観が高級SUVのレンジローバーに似ているとして、格安通販サイトになぞらえた「Temu Range Rover(Temu版レンジローバー)」という愛称も付いている。

 だが、価格差は大きい。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が取材した33歳の購入者は、自身が選んだ仕様のジェクー7が約5万ドル相当だったのに対し、外観の似たレンジローバーは約2倍だったという。試乗した結果、購入を迷う余地はなかったと話している。

 販売店側も、価格と高級感の組み合わせが人気の理由だとみる。英リーズの販売店幹部は、高価に見え、乗っても高価に感じられるのに、実際の価格を知ると驚く、とWSJに説明した。

◆高級車から乗り換える人も
 ジェクー7は単に「安い中国車」を求める層だけに売れているわけではない。

 ロンドンの販売店幹部によると、ジェクー購入者のおよそ5人に3人が、それまでBMW、メルセデス、レンジローバーなどの高級ブランドに乗っていた。金利上昇で高級車のローン負担が増すなか、ジェクーは無利子ローンも提供し、月々の支払いを抑えながら同様の装備を求める消費者を取り込んでいるという。

 レンジローバーとの間には意外な接点もある。チェリーは2012年、レンジローバーを展開するジャガー・ランドローバー(JLR)と中国で合弁会社を設立し、上海近郊の工場でレンジローバー・イヴォークの中国向けモデルを生産していた。

◆中国ブランド、英国市場の23%に
 ジェクーの成功は、中国メーカー全体の急成長を象徴している。

 ブルームバーグによると、9月には中国ブランドがイギリス新車市場の23%を占めた。SMMTのブランド別登録データでは、BYDが5.75%、ジェクーが4.3%だった。

 中国製BEVをめぐる政策環境もEUとは異なる。EUは中国製BEVに追加関税を課しているが、イギリスには同様の追加関税がない。

 もっとも、中国勢の伸びを関税だけで説明することはできない。SMMTによると、9月のイギリスの新車登録台数は前年同月比12.0%増え、9月として2017年以来の高水準となった。

 また、中国勢の伸びを支えているのはEVだけではない。ジェクー7にはガソリン車とPHEVがあり、チェリーがイギリスで販売する車の中心もPHEVだ。完全なEVへの移行をためらう消費者も取り込んでいる。

◆薄れる「中国車」への抵抗感
 チェリーのイギリスでの販売は、1〜9月に前年同期の3倍以上へ拡大した。WSJによると、かつて長年にわたりイギリス市場をリードしてきたフォードも上回っている。

 消費者の意識も変わりつつある。リーズの販売店幹部はWSJに、長年にわたり中国製の電子機器を購入してきたこともあり、現在ではジェクーのような中国ブランドの車を所有することにも、多くのイギリス人が抵抗を感じなくなっていると説明する。

 ジェクー7の販売首位は、1車種のヒットにとどまらない。価格と装備を武器に、中国メーカーがイギリスの新車市場で急速に存在感を高めていることを象徴している。

Text by 白石千尋