中国への依存深まるシベリア 資源・観光で存在感、住民には警戒も
在イルクーツク中国総領事館(2024年7月、ロシア・イルクーツク、筆者撮影)
シベリアと中国の関係が近年、急速に深まっている。ロシアによるウクライナ侵攻後、中国はロシア産原油や天然ガスの重要な輸出先となっただけでなく、農業や観光、物流など幅広い分野で存在感を高めている。一方、シベリアでは中国への経済的な依存が強まることへの警戒や反発もくすぶる。中国を必要としながら、その影響力の拡大には複雑な感情を抱く——そんなシベリアの現在を追った。
◆戻ってきた中国人観光客
2024年以降は、中国からの人の流れも回復している。コロナ禍以前から、シベリアの観光業は中国人観光客への依存度が高かった。主要な観光地であるバイカル湖を擁するイルクーツク州では、2018年に中国人観光客が18万6000人に達し、外国人観光客の6割超を占めていた。2025年末には、ロシアが中国の一般旅券保有者を対象に、観光を含む30日以内の滞在についてビザを免除する措置を導入した。2026年上半期には、ロシアを訪れた中国人観光客が38万600人となり、前年同期比19.7%増えている。
◆資源・農業に広がる中国企業
シベリアの経済学者アルダル・バドマエフ氏は「モスコフスカヤ・ガゼータ」の取材に、中国企業は林業や鉱業、金や翡翠(ネフライト)の採掘など、未加工の原材料を調達できる分野に進出していると説明している。バドマエフ氏によると、こうした分野では中国側が原材料の販路を独占し、付加価値の多くは中国国内や、ロシア側と直接取引しない大手企業への転売によって生み出されているという。原材料は「グレーゾーン」で事業を行う混合資本の企業などを通じて買い付けられることが多いとしている。
ブリヤート共和国には、ロシア国内で確認されている翡翠の埋蔵量の9割以上が集中しているとされ、中国企業も採掘に進出している。バドマエフ氏によると、同共和国では中国企業による薬用植物や菜種の栽培も行われている。同氏は、中国企業がこうした農産物の出荷価格や付加価値を事実上コントロールしており、地域当局は価格形成にほとんど関与できていないと指摘している。
中国との経済関係が深まる一方、シベリアでは森林資源をめぐる違法行為も問題となってきた。違法伐採された木材の中国向け流通には中国側の事業者が関与するケースも指摘されており、大規模な森林伐採は生態系だけでなく、森林に生活を依存する先住民族にも影響を及ぼしている。さらにロシアでは、違法伐採の痕跡を隠すために森林に火を放ったり、森林を先に焼いたうえで火災被害木として伐採したりする手口も報告されている。
こうした問題には環境保護団体や地元住民から反発の声が上がってきた。ただ、経済が低迷し、ほかに仕事の乏しい地域では、違法伐採が住民の生活の糧となっているケースもある。
◆深まる依存、消えない警戒
こうした摩擦がある一方で、中国を訪れるロシア人観光客は急増している。中国は2025年9月、ロシアの一般旅券保有者を対象に、観光などを目的とする30日以内の滞在についてビザを免除した。これを受け、ロシア側も同年末に中国人に対するビザ免除措置を導入した。2026年上半期には、ロシア人観光客による中国への旅行が101万5000回に上り、前年同期比53%増加した。ビザ免除に加えて中露間の航空便も増えており、ロシア人にとって中国は一段と訪れやすい旅行先となっている。ヨーロッパへの旅行が難しくなっていることも、中国人気を押し上げる一因になっているという。
ロシア人にとって中国は以前から身近な買い物先、旅行先だった。ロシア極東から中国への旅行について調べた研究では、かつては国境を越えたショッピング目的の旅行が大きな割合を占めていた一方、次第に休暇や療養など旅行目的が多様化し、訪問する都市も広がっていったことが報告されている。近年もその傾向は続いており、重慶や成都など新たな都市への旅行も増えている。旅行業界からは、初めて中国を訪れるロシア人には言葉や移動への不安があるものの、実際に訪れると旅行のしやすさを実感し、再訪につながるケースが多いとの指摘もある。
こうした往来の拡大が進む一方で、シベリアの人々の対中感情は決して単純ではない。筆者は現地のメディアや住民を通じ、中国人観光客がバイカル湖について「ここは昔、中国の領土だった」と語るとの話をたびたび耳にしてきた。こうした言説に警戒感を抱く地元住民がいる一方、観光や資源開発、物流などを通じて中国との経済的な結びつきは強まっており、中国は地域の暮らしを支える重要な存在にもなっている。
シベリアと中国の関係が深まるほど、経済的には中国を必要としながら、その影響力の拡大には警戒するというシベリアのジレンマも浮き彫りになっている。




