中国EV、過剰生産で「副作用」 当局指導も競争激化

中国広東省のGAC Aion工場のEV生産ライン(2025年9月)|Ringo Chiu / Shutterstock.com

 中国の電気自動車(EV)市場で値下げ競争が一段と激しさを増している。背景にあるのは需要の鈍化ではなく、供給の膨張だ。

 中国の自動車産業は急速な拡大を続けてきたが、その結果として生産能力は大きく膨らんだ。業界データによると、中国の自動車生産能力は年間5500万台規模に達する一方、販売台数は2000万台前半にとどまる。工場の稼働率はおよそ50%にとどまり、供給過多の状態が常態化している。

 こうした過剰供給の背景には、構造的な要因がある。中国のEV過剰生産は需要の低迷によるものではなく、政策支援や地方政府の競争、企業の拡大戦略が重なった結果として生じた構造的な問題だ。

 余剰となった車両をさばくため、メーカー各社は価格引き下げに動く。中国最大手のBYDでは、2026年3月の平均値引き率が約10%に達し、過去最高を更新した。ブルームバーグがまとめたデータによると、吉利汽車(ジーリー)や奇瑞など他社でも値引きは拡大している。

 当局は過度な価格競争を抑えるため、メーカーへの指導を繰り返してきたが、実効性は限られているとみられる。業界内でも価格競争は避けられないとの見方が強く、短期的な収束は見込みにくい。

 値下げは消費者にとって恩恵が大きい一方、その副作用も顕在化しつつある。販売価格の下落はメーカーの収益を圧迫し、BYDはコロナ禍以降で初めて減益となった。さらに価格変動の大きさは中古車の価値を不安定にし、リースやローンといった金融分野にも影響を及ぼす可能性がある。

 影響はサプライチェーンにも広がる。部品メーカーへの支払い条件の見直しなど、コスト圧力は関連企業にも波及している。価格競争は単に販売戦略にとどまらず、産業全体の収益構造を揺るがし始めている。

 国内で吸収しきれない供給は海外市場へと向かう。中国のEV輸出は増加を続けており、欧州連合(EU)や中南米の一部の国・地域では関税引き上げなどの対抗措置が取られている。中国発の低価格は、世界市場の競争環境にも影響を及ぼしつつある。

 急成長の裏で生まれた過剰生産は、今後の産業再編を促す可能性がある。企業の淘汰や統合が進めば供給は調整されるが、雇用への影響も避けられない。

 価格が下がるほど市場は拡大する――。そうした単純な図式が通用しない段階に、中国のEV産業は入りつつある。安さの裏側にある構造問題が、いま改めて問われている。

Text by 白石千尋