ロシアはなぜイランを助けないのか プーチンが狙う「漁夫の利」
Mikhail Metzel, Sputnik, Kremlin Pool Photo via AP
アメリカとイスラエルのミサイルや爆弾がイランに降り注ぐ中、ロシアは憤りの言葉で応じているものの、中東の同盟国を支援するための目に見える行動は起こしていない。
この慎重な姿勢の背景には、ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに注力していることや、イラン戦争が石油収入の増加をもたらし、西側諸国によるウクライナへの支援を弱めることで、ロシアにとって有利に働くとの期待がある。
プーチン氏はイランのマスード・ペゼシュキアン大統領に弔意を伝え、先週末に起きたイラン最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の殺害を「人間の道徳と国際法のあらゆる規範に対する冷笑的な違反」として非難した。
2024年にシリアのバッシャール・アサド前大統領が追放され、さらに1月にはアメリカがベネズエラの指導者ニコラス・マドゥロ氏を拘束した。そうした中でロシアが再び同盟国を救えなかったことは、その影響力の限界を浮き彫りにした。一方でロシアは、イラン戦争から利益を得られると期待している。
ロシアはすでに、戦争によってホルムズ海峡を通過するタンカーの航行が混乱し、湾岸諸国のエネルギー施設が被害を受けたことで、エネルギー価格が高騰した恩恵を受けている。戦闘が激化すれば、こうした「棚ぼた」的な利益がロシアの国庫を潤し、ウクライナでの軍事作戦の資金や財政赤字の穴埋めに役立つ可能性がある。
またロシアは、イラン戦争が世界の関心をウクライナからそらし、西側の兵器備蓄を消耗させ、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)加盟国にウクライナへの軍事支援縮小を迫ることも期待している。
◆ロシアの迅速な非難
戦争が始まった2月28日の数時間後、ロシア外務省はアメリカとイスラエルによるイラン攻撃を「主権を持つ独立した国連加盟国に対する、計画的で挑発のない武装侵略行為であり、国際法の基本原則と規範に直接違反する」と非難した。
開戦から1週間後、プーチン氏はペゼシュキアン大統領と電話会談し、ロシアは戦闘の早期終結を望んでいると述べた。しかしその前に、プーチン氏は湾岸諸国の首脳らと相次いで電話会談を行っていた。これらの国々は、世界の原油価格を左右する石油輸出国機構(OPEC)プラスの枠組みの一員であり、西側の制裁を回避する上でも重要な貿易相手として、ロシアにとって重要性を増している。
ロシア政府によれば、プーチン氏は湾岸諸国首脳の「自国インフラへの攻撃に対する深い懸念」をイラン側に伝え、「少なくとも緊張緩和に向けてあらゆる努力を払う」と述べた。
その後のイラン外相との電話会談で、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は「民間人の安全確保と、地域のすべての国における民間インフラ保護の優先性」を強調した。
ロシア政治の専門家でコンサルタント会社マヤク・インテリジェンスを率いるマーク・ガレオッティ氏は、「ロシアは実際、中東においてかなり効果的に行動してきた」と指摘する。戦争が激化すれば、地域の多くの勢力が「もう少しロシアに目を向ける」理由が出てくるかもしれないと語る。
◆不安定なパートナー
ロシアとイランは2025年1月に「包括的戦略パートナーシップ」条約に署名したが、その関係には複雑な過去があり、ライバル意識も残っている。
ロシアとイランは西側主導の「ルールに基づく秩序」への反対で一致しているものの、ガレオッティ氏は最近のポッドキャストで「イランはロシアにとって常に一種の戦略的フレネミー(友を装う敵)だった」と述べた。
冷戦時代、パフラヴィー国王モハンマド・レザ・シャーがアメリカの強固な同盟国だったころ、ロシアとイランの緊張は高まっていた。1979年のイスラム革命でルーホッラー・ホメイニ師はアメリカを「大サタン」と呼び、ソ連を「小サタン」と呼んだ。
1991年のソ連崩壊後、ロシアが重要な貿易相手となり、ブシェールでのイラン初の原子力発電所建設を支援したことで関係は急速に改善した。2011年にシリア内戦が勃発すると、両国は協力してアサド政権を支えたが、2024年12月の電撃的な政権崩壊を防ぐことはできなかった。
2022年2月にプーチン氏がウクライナへ侵攻した後、イランはロシアにシャヘド自爆ドローンを提供し、後にロシア国内での生産も認めた。
しかしイランとの関係を築く一方で、ロシアはイスラエルとも友好関係を維持しており、ロシアの意図を疑うイラン指導部の多くを憤慨させてきた。
モスクワを拠点とする軍事アナリスト、セルゲイ・ポレタエフ氏は「イランがアメリカに強く反対しているにもかかわらず、ロシアとイランの関係は常に複雑で困難なものだった」と解説で述べている。
2025年6月にアメリカとイスラエルがイランを攻撃した際、ロシア当局は「戦略的パートナーシップ」には侵略を受けた場合の相互軍事支援は含まれていないと強調した。
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は5日、ロシアが言葉だけでなく兵器提供に踏み切る可能性があるか問われると、イラン側からそのような要請は受けていないと答えた。
アメリカの情報機関に詳しい当局者2人が6日、AP通信に対し、イランがアメリカの軍艦や航空機など地域内の資産を攻撃するのに役立つ情報を、ロシアが提供したと語った。
この当局者らは、機密性の高い問題について公に発言する権限がないため匿名を条件に語り、アメリカの情報機関は、ロシアがその情報の使い方についてイランに指示している証拠は確認していないと警告した。
ペスコフ氏は6日、「ロシアはイラン側、イラン指導部の代表者と対話しており、この対話を当然継続する」と述べた。戦争開始以来、軍事的または情報面での支援をテヘランに提供したかどうかについてはコメントを避けた。
◆プーチンの権威へのダメージは限定的
ハメネイ師の殺害により、ロシアが同盟国を守れなかったという議論が再燃しているが、プーチン氏の権威へのダメージを誇張すべきではないと指摘する観測筋もいる。
ガレオッティ氏は、ロシアとイランは「常に非常に実利的な同盟国だった」と指摘する。「イランは中東、さらには南コーカサスでも影響力を争うライバルだ。もしこの体制が完全に崩壊せず、勢力が弱められるだけなら、ロシアにとってはむしろ扱いやすい一時的な戦略パートナーになる可能性がある」と述べる。
イラン産原油の主要顧客である中国は、戦闘の拡大に伴いロシア産原油の輸入を増やす可能性が高い。アメリカはインドにロシア産原油の輸入停止を迫った後、5日に現在洋上にある分については30日間の輸入猶予を認めた。トルコもイランからの供給が途絶えれば、ロシアからの天然ガス輸入を増やす可能性がある。
キングス・カレッジ・ロンドンのサム・グリーン教授も、「アサド、マドゥロ、ハメネイといった同盟国を失うことでプーチン氏が苦境に立たされるという考えは、西側のアナリストの頭の中にしか存在せず、観察可能な事実に基づく根拠はない」と指摘する。「彼がそれを気にしているとか、それが国内の権威や国外での正当性に影響するという証拠は全くない」とX(旧ツイッター)への投稿で述べた。
◆プーチンとトランプの関係
プーチン氏はイランを助けるために、アメリカのドナルド・トランプ大統領との関係を危険にさらすことはないだろうと、グリーン氏は言う。プーチン氏が個人的に不快に感じていたとしても、「トランプ氏との関係を台無しにすることはない」と論じている。
グリーン氏は、「プーチン氏にとって(トランプ氏は)ヨーロッパに対する最大のレバレッジ(交渉材料)だ。彼は本質を見失わないだろう」と述べる。
イスラエルや湾岸諸国を狙うイランのミサイルを防ぐため、アメリカとその同盟国がパトリオット迎撃ミサイルの在庫を急速に使い果たしていく状況を、ロシアはほくそ笑んで見ているに違いない。
ポレタエフ氏は「紛争が長引けば、ウクライナからの関心をそらすだけでなく、ミサイル防衛システムのような重要な資源をペルシャ湾へ振り向けることになる」と述べた。
ガレオッティ氏は「この紛争でパトリオットが消費されればされるほど、アメリカが一般的に利用できる数は減り、それをウクライナに譲渡したり売却したりすることへの抵抗は強まるだろう」と付け加えた。
By VLADIMIR ISACHENKOV Associated Press




