美徳は自分のためになるか、他者のためだけか 思いやりなどが自分の幸福感につながると研究が示唆
Nattanan Zia / Shutterstock.com
著:Michael Prinzing(ウェイクフォレスト大学、Research and Assessment Scholar)
思いやり、忍耐、自制といった美徳は、他者のためになるだけでなく、自分自身にとっても有益である可能性がある。私と研究チームが2025年12月に学術誌「Journal of Personality」で発表した新たな研究は、それを裏づける結果を示した。
アリストテレスから、現在のイラクにあたる地域で活躍した10世紀の学者アル・ファーラービーまで、多くの哲学者は、美徳が幸福にとって不可欠だと論じてきた。一方で、トマス・ホッブズやフリードリヒ・ニーチェなどは正反対の主張をしている。美徳は自分自身には利益をもたらさず、他者にとってのみ良いものだという考え方である。この後者の理論は、現代心理学の多くの研究に影響を与えてきた。そこではしばしば、道徳と自己利益は根本的に対立するものと捉えられている。
多くの研究は、寛大さが幸福と関連していることや、人々に親切な行動を促すことで幸福感が高まることを明らかにしてきた。しかし、他の美徳は必ずしも心地よいものではない。
例えば、思いやりのある人は苦しみや不幸を和らげたいと願うが、その前提として、苦しみや不幸が存在していなければならない。忍耐は、いらだたしいことや困難なことが起きているときにのみ発揮される。そして自制心は、自分の欲求を抑えたり、困難なことをやり抜いたりすることを伴う。
こうした種類の美徳は、本当に自分にとって良いものなのだろうか。
私たちはこの問いを検証するため、2つの研究を行った。人々の日常生活における特定の瞬間に焦点を当てるため、異なる2つの方法を用いた。目的は、それらの瞬間において、人々がどの程度思いやりがあり、忍耐強く、自制心を示していたのかを明らかにすることだった。同時に、心地よさや不快感の度合い、行っている活動に意味を見いだしていたかどうかといった、幸福感の水準も測定した。
青少年を対象とした研究では、経験サンプリング法を用い、被験者に一日を通して無作為なタイミングで質問に答えてもらった。成人を対象としたもう一方の研究では、一日再構成法を用い、被験者に前日についての質問に答えてもらった。これらの回答をもとに、合計で1218人の延べ4万3164の瞬間を分析した。
助けを必要としている人に出会ったり、気難しい人に対処したりするなど、思いやり、忍耐、自制心をもって行動する機会がある状況では、人々は他の状況よりも、不快な感情を多く、心地よい感情を少なく経験する傾向があった。しかし同時に、これら3つの美徳を発揮することが、人々の対処を助けている可能性が示された。習慣的に思いやりがあり、忍耐強く、自制心の高い人ほど、幸福感が高い傾向にあった。また、普段よりも多く思いやりや忍耐、自制心を示したとき、人々は通常より良い気分を感じていた。
要するに、美徳は他者には良いが自分には悪いとする理論は、今回の結果によって否定された。むしろ、美徳が幸福を促進するという理論を支持する結果だった。
◆なぜ重要なのか
これらの研究は、道徳と幸福の関係について、古くから大きな影響力を持つ2つの理論が導く予測を検証したものである。その過程で、哲学や心理学、そして日常生活において議論され続けてきた、最も根本的な問いの1つに新たな洞察を与えた。
さらに、道徳の科学的研究では、人々がどのように道徳的判断を下すのか、また外部からの力がどのように個人の道徳的行動を形成するのかを調べる研究が数多く行われてきた。一方で、こうした研究は、道徳的特性に関する研究や、それらが人格全体の中でどのように位置づけられているのかを検討する研究によって補完されるべきだと主張する研究者もいる。忍耐、思いやり、自制心といった特性と、それらが人々の日常生活で果たす役割に焦点を当てることで、私たちの研究は、新たに発展しつつある美徳の科学に貢献している。
◆まだ分かっていないこと
今後の研究に残された問いの1つは、思いやりや忍耐、自制といった美徳が、特定の条件下でのみ幸福感の向上と結びつくのかどうかである。例えば、人生の段階や、世界のどの地域で暮らしているかによって、状況が異なる可能性がある。
今回の研究は無作為化実験ではない。観察された関連性は、別の要因によって説明できる可能性もある。つまり、幸福感を高めると同時に、思いやりや忍耐、自制心も高める何かが存在しているのかもしれない。あるいは、美徳が幸福感を高めるのではなく、幸福感が美徳に影響を与えている可能性もある。因果関係を明らかにするには、今後の研究が必要だ。
特に興味深い可能性として、「好循環」が存在するかもしれないという点が挙げられる。美徳が幸福感を高め、幸福感がさらに美徳を促すという循環である。もしそうであれば、その循環を人々がどのように始められるのかを明らかにすることは、非常に大きな価値を持つだろう。
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by NewSphere newsroom
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