「カレー差別」訴訟、米大学で20万ドル和解 電子レンジでの加熱が発端

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 共用スペースの電子レンジでカレーを温めたことをきっかけに差別的な扱いを受けたとして、昨年5月、インド人学生2人が所属する大学を相手取り訴訟を起こした。学生側は、食文化を理由とした人種差別に当たると主張。最終的に大学側が20万ドルを学生側に支払う一方、法的責任は一切認めない形で和解が成立した。

◆刺激的な臭い カレーが嫌がらせの発端に
 BBCによると、訴訟を起こしたのは、コロラド大学ボルダー校の人類学部博士課程に在籍していたアディティア・プラカシュ氏と、その婚約者で同じく博士課程のウルミ・バッタチェリア氏。2023年9月、プラカシュ氏が昼食として持参したパラク・パニール(ほうれん草のピューレとインドのカッテージチーズを使ったカレー料理)を学部内の電子レンジで温めていたところ、職員から「刺激的な臭いがする」と指摘され、そのような食品を温めることは禁止されていると告げられたという。

 どの食品が「刺激的」と見なされるのかをプラカシュ氏が尋ねたところ、「サンドイッチは該当しないが、カレーは該当する」と説明されたとされる。

 プラカシュ氏によれば、このやり取りの後、大学側は研究資金の停止や教職の剥奪に踏み切り、博士課程の担当指導教員からも外されたという。バッタチェリア氏も、文化相対主義(文化に優劣はないとする考え)をテーマにした自身の授業にプラカシュ氏をゲストとして招いた後、同様の不利益な措置を受けたと訴えている(BBC)。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によると、大学側は業績や勤務態度に問題があったと説明していたが、2人はいずれも成績優秀だったという。

 2025年5月、2人は差別的な扱いに加え、問題提起後に不利益な対応が段階的に強まったとして、大学を相手に公民権訴訟を起こした。同年9月、大学側が20万ドル(約3100万円)を支払う形で和解が成立。和解条件として大学は2人に修士号を授与することを認めた一方、責任は否定し、今後の研究や勤務を認めないとした。(BBC)

◆寛容さを失うアメリカ 構造的人種差別か
 2人は、学部内キッチンの運用方針が南アジア系など特定の民族グループに不釣り合いな不利益をもたらし、差別的な結果を生んでいると主張。大学側の対応によって深刻な精神的苦痛を受けたとしている。

 さらにバッタチェリア氏は、今回の出来事はトランプ氏の復権以降、アメリカ社会で進む変化と重なると指摘する。共感の幅が狭まり、多様性を掲げてきた教育機関でさえ、移民や有色人種に対する忍耐力が低下していると述べた。(インディアン・エクスプレス紙

 この事件が報じられると、インドでは西洋諸国における「食を巡る差別」についての議論が広がった。ソーシャルメディア上では、海外で自身の食習慣を嘲笑された経験を語る投稿が相次いだという。2人は、訴訟の目的は金銭ではなく、「インド人らしさ」を理由に差別を行えば結果を伴うことを示すためだったとしている。(BBC)

 プラカシュ氏は、自身が直面した問題を「構造的人種差別」だとソーシャルメディアに投稿してきた。現在2人はインドに帰国しているが、どれほど能力があっても、制度の下では肌の色や国籍によって国外退去を迫られかねないとし、アメリカに戻ることはないかもしれないと語っている。(BBC)

◆感じ方は人それぞれ 文化的相対性の問題
 パラク・パニールのような香りの強い料理に慣れていない人にとっては、密閉された空間では「刺激的」と感じられる場合もあるとの見方もある。香りに対する期待や受け止め方の違いは、文化的相対性を反映しており、ある人にとって心地よい匂いが、別の人には不快に感じられることもある。

 感覚研究の専門家は、こうした配慮が欠けた場合、慣れ親しんだ料理を作る行為が職場や学校の規範と衝突する可能性があると指摘する。近年、多文化環境にある機関では、文化的な食習慣についての理解を深め、共有スペースでの寛容さを促す取り組みが進められているという。(インド日刊紙バスカー英語版)

 食べ物の臭いを巡る差別は、決して珍しいものではない。NYTによると、ニューヨーク大学のクリシュネドゥ・レイ氏は、かつてアメリカではイタリア系移民がニンニクの臭いを理由に嘲笑されてきたと指摘する。移民の子供たちが、親の作った弁当の臭いについて心ない言葉を投げかけられる例は、世代を超えて繰り返されてきたという。食の臭いが特定の人々を劣った存在として示唆するために使われること自体が問題であり、今回のケースもその延長線上にあると見ている。

Text by AP