トランプ氏との関係悪化リスク抱え、スターマー英首相が訪中へ
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イギリスのキア・スターマー首相が中国に向かう。アメリカとの関係が緊張するなかで、北京との関係を雪解けさせる狙いがある。
スターマー氏はイギリス経済のてこ入れを期待するが、国内の対中強硬派の反発に加え、すでに最も近い同盟国に関税を課し、批判を浴びせているアメリカのドナルド・トランプ大統領の怒りを買うリスクもある。
28日に始まる今回の訪中で、スターマー氏は中国の習近平国家主席と会談する予定だ。イギリス首相の訪中は2018年以降で初めてとなる。イギリス側はピーター・カイル・ビジネス貿易相と多数の企業経営者が同行すると見込まれている。中国の技術と投資を呼び込みつつ、イギリスの金融サービス、自動車、スコッチウイスキーについて、世界第2位の経済大国へのアクセス拡大を狙う。
上海の復旦大学・国際問題研究院の趙明昊教授は、中国はもはや世界の工場であるだけではなく、世界的な市場にもなりつつあると述べた。
◆「黄金時代」から「大冷え込み」へ
ロンドンのキングス・カレッジにあるラウ中国研究所の所長、ケリー・ブラウン氏は、地政学の劇的な変化がイギリスと中国の関係に新たな機会を生み出すなかでの訪中だと指摘した。
ただしブラウン氏は、スターマー氏が向き合う相手は非常に懐疑的だとも述べる。
ブラウン氏は、イギリスの対中関係は一貫しておらず、熱くなったり冷めたりしてきたと言う。
かつては、2015年に保守党のデービッド・キャメロン首相(当時)が習氏を伝統的なパブへ連れて行き「黄金時代」を宣言したこともあった。しかし、その親密さは短命に終わり、以降、両国の関係は悪化の一途をたどっている。北京による香港の市民的自由の弾圧、ウクライナ戦争におけるロシアへの支援、そしてスパイ活動や経済的干渉への懸念の高まりが、ロンドンと北京の間の溝を深めた。
キャメロン氏の後継となった保守党政権は、機微な通信インフラへの中国投資を禁じ、イギリスの新規原子力発電所への投資からも中国を締め出した。
中道左派の労働党政権は、18カ月前の政権発足後に対中関係の見直しを実施した。政府は、現実主義に立脚した「冷静な実利主義」を掲げる。中国のスパイ活動や干渉から国家安全保障を守りつつ、外交対話と経済協力は維持するという立場だ。
世界第6位の経済規模を誇るイギリスの経済も、スターマー氏自身の支持率も、テコ入れが必要な状況にある。
スターマー政権は、公約した経済成長の実現や、数百万世帯に及ぶ生活費危機を緩和するのに苦慮している。世論調査では労働党は右派の「リフォームUK(改革党)」の後塵を拝しており、不安を感じている労働党議員の間では、よりカリスマ性のあるリーダー、例えばマンチェスター市長のアンディ・バーナム氏に交代した方が良いのではないかという議論が公然と交わされている。
◆アメリカの同盟国は中国へ目を向ける
スターマー氏の訪中は、トランプ氏と良好な関係を築こうとしてきた努力に、ほころびが見え始めた時期と重なる。そうした努力は、イギリスの主要な自動車・航空宇宙産業に対するアメリカの関税を引き下げる貿易協定という成果も生んだ。
スターマー氏は数カ月にわたり、トランプ氏がロンドン市長を攻撃し、イギリスの移民政策をこき下ろし、BBCを100億ドルの損害賠償を求めて提訴した際も、公の場での批判を控えてきた。
だが直近では、トランプ氏がグリーンランドを掌握したいとする意向に反対し、完全に間違っていると述べた。また、アフガニスタンでのイギリスを含む北大西洋条約機構(NATO)部隊の役割を侮辱するトランプ氏の発言を、侮辱的で、おぞましいと非難した。
スターマー氏の北京訪問は、カナダのマーク・カーニー首相の訪中から数日後に当たる。来月はドイツのフリードリヒ・メルツ首相が訪中する見通しで、アメリカの最も強固な同盟国の一部が、予測不能なトランプ氏に備えて選択肢を分散させている。
趙氏は、関税、グリーンランド、ウクライナ戦争を含むアメリカの最近の政策動向をめぐって同盟国の不安が強まり、同盟国がアメリカからの「リスク低減(デリスク)」のために政策を再調整する動きの波を引き起こしたと述べた。
ただし北京への接近は、ワシントンとの亀裂を招く危険もある。トランプ氏は、今月の訪中でカーニー氏が中国と貿易協定を結んだ後、カナダ製品すべてに100%の関税を課すと脅している。
◆スパイ活動と人権の懸念
スターマー氏の批判者は、政府が中国の安全保障上の脅威に甘く、北京からの圧力の前で弱腰だと主張する。
今回の訪中は、ロンドン塔近くに2万平方メートルの中国大使館を建設する計画をイギリスが承認した直後でもある。反対派は、この「巨大大使館」が中国によるスパイ活動や、反体制派への威圧を容易にするとして強く反発してきた。
スターマー氏は、インド洋のチャゴス諸島をモーリシャスに引き渡す合意でも批判を受けている。政府は、法的異議申し立てからイギリス・アメリカの重要な軍事基地の将来を守るためだと説明するが、批判者は中国の影響力を招く入り口になると主張する。先週、トランプ氏はこの合意に反対を表明し、従来の支持を覆した。
人権も難所である。1992年から1997年まで香港総督を務め、香港がイギリスから中国へ返還された時期に当たるクリス・パッテン氏は、中国のウイグル族の扱い、香港の民主活動家で英国市民でもある黎智英(ジミー・ライ)氏の投獄などの問題について、スターマーは毅然(きぜん)と異を唱えるべきだと述べた。
「無礼になる必要はないが、こちらの考えを正確に伝えるべきだ」とパッテンは言う。「彼らは我々が異質な存在であることを知っているが、合理的な関係を望んでいる。特にトランプ氏による現在の世界情勢を考えれば、我々も彼らと合理的な関係を築くことを望むべきだ」
キングス・カレッジのブラウン氏は、スターマー氏は今回の訪問で多額の投資を確保し、大きな政治的落とし穴を回避できれば、成功と見なすだろうと考えている。
「彼らがやろうとしているのは、基本的には一貫性と、もう少しの予測可能性を約束することだ。協力できるところは協力し、そうでなければ意見の相違を認める、ということだ」
By JILL LAWLESS Associated Press




