イラン危機が招く核拡散リスク 専門家が警鐘

イラン南部ブシェール市郊外にあるブシェール原子力発電所(2010年8月21日)|Vahid Salemi / AP Photo

 イラン政府による抗議デモへの武力弾圧を巡り、アメリカとイランの間で緊張が激化する中、専門家らは、イランの神権政治体制を揺るがす国内の混乱が、核拡散のリスクをもたらす可能性があると警告している。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領はここ数日、イランへの軍事攻撃を見送る姿勢を見せていたが、17日には、イランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の約40年にわたる統治の終結を呼びかけた。ハメネイ師が、デモ参加者を支持したトランプ氏を「犯罪者」と呼び、数千人の死者を出した責任はデモ隊にあると非難した。トランプ氏の発言は、これを受けたものだ。

 一方、数日前まで南シナ海に展開していたアメリカの空母が、夜間にシンガポールを通過してマラッカ海峡に入った。これは中東に向かう可能性のあるルートである。

 こうした危険な状況を受け、専門家らはイランの核物質も危険にさらされる可能性があると警告している。

◆核物質の管理喪失リスク
 元イラク核兵器査察官で、ワシントンの非営利団体「科学国際安全保障研究所」の創設者であるデビッド・オルブライト氏は、イラン国内が混乱に陥るシナリオでは、政府が「核資産を保護する能力を失う」可能性があると述べた。

 同氏は、イランの高濃縮ウランの在庫が「最も懸念される」とし、誰かがこの物質の一部を盗み出す可能性があると付け加えた。

 このようなシナリオには歴史的な前例がある。1991年のソビエト連邦崩壊後、警備の低下や資産保護の弱体化により、核爆弾の製造に適した高濃縮ウランやプルトニウムが行方不明となった。

 これまでのところ、イランは自国の核施設を管理下に置いている。これは、6月にイスラエルがイランに対して開始し、アメリカが爆撃を行った12日間の戦争の後でも同様である。

 ウィーンに拠点を置く国連の核監視機関である国際原子力機関(IAEA)によると、イランは純度60%まで濃縮されたウランを440.9キログラム保有している。これは、兵器級の90%まで技術的にあとわずかの段階である。

 同機関は昨年11月の報告書で、6月の戦争以来、この高濃縮ウラン在庫の状態や場所を確認できていないと述べた。そのため、戦争の影響を受けた施設において「以前に申告されたイランの核物質在庫に関する情報の連続性」が失われたとしている。

 IAEAに近い外交官は19日、高濃縮ウラン在庫の状態や所在について、イラン側から依然として何の情報も得られていないことを認めた。この外交官は、外交プロトコルに従い匿名を条件に語った。

 オルブライト氏によると、イランの高濃縮ウランの在庫は、輸送用に設計された約18~20個のシリンダーに収まるという。満杯時の重量は各約50キログラムで、「2人で簡単に運ぶことができる」と、同氏は容器について説明した。

 ワシントンに拠点を置く「軍備管理協会」の非拡散政策ディレクター、ケルシー・ダベンポート氏は、在庫が「秘密プログラムに転用されるか、あるいは兵器化の選択肢を維持しようとする政府や軍の派閥によって盗まれる」リスクがあると指摘した。

 同氏は、このリスクはイラン政府が脅威を感じたり、不安定化したりするにつれて高まると述べた。

 内部の混乱や政府崩壊の可能性がある場合、核物質の一部がイラン国外に密輸されたり、非国家主体に売却されたりする可能性があるとダベンポート氏は言う。

 「物質の状態や所在に関する不明な点を考慮すると、リスクは現実的だが評価は困難だ」と強調した。

◆核兵器製造の可能性
 ダベンポート氏とオルブライト氏は共に、イランの60%濃縮ウランを使って核爆弾を製造する理論的な可能性についても指摘している。テヘランは長年、自国の計画は平和目的であると主張してきた。

 しかし、通常の90%純度ではなく、60%濃縮ウランから直接作られた兵器は、より多くの核物質を必要とする。そのため、「非常に大きくかさばり、おそらくミサイルへの搭載には適さない」と、元米情報分析官で現在は「核脅威イニシアティブ」の副会長を務めるエリック・ブリュワー氏は述べた。

 一方で、そのような装置でも、例えば「砂漠で爆発させる」ことは可能だと同氏は付け加えた。

 ブリュワー氏は、現在のイラン政府がその道に進む可能性を「完全に排除すべきではない」としつつも、ほとんどの情報は、高濃縮ウランが「アメリカの攻撃の結果、トンネル内に埋もれたままであり、政権が簡単にアクセスできる状態ではない可能性が高い。少なくとも、アメリカやイスラエルによる検知や再攻撃の大きなリスクなしには不可能だ」と示唆していることを強調した。

 また、最近の出来事は「最高指導者が兵器化の決断を下すには、非常に高いハードルがあることも示している」と付け加えた。

◆原子力発電所への標的化
 内部混乱が生じた場合、テヘランの南約750キロメートルにあるイラン唯一の商用原発、ブシェール原子力発電所も、混乱を引き起こしたり政治的な主張を行ったりする目的で、破壊工作や攻撃の標的になる可能性があるとオルブライト氏は述べた。なお、ブシェール原発の燃料には、イラン製ではなくロシア製のウランが使用されている。

 今のところ、イランが治安部隊の指揮統制を失っている兆候はない。

 オルブライト氏は、1982年にアパルトヘイト反対運動が激化した南アフリカで、アフリカ民族会議(ANC)の武装部門がケープタウン近郊のコーバーグ原子力発電所を攻撃した事例を挙げた。この破壊工作は大きな被害をもたらしたが、放射性物質の漏洩(フォールアウト)は発生しなかった。

 「もしブシェール原発で重大な事故が起きれば、風に乗って放射性降下物は12時間から15時間以内にアラブ首長国連邦、サウジアラビア、オマーンに到達するだろう」とオルブライト氏は警鐘を鳴らした。

Text by AP