酷評からカルト的人気へ 日産ムラーノ クロスカブリオレの数奇な運命

日産自動車

 「オープンカーに乗りたい」。当時CEOだったカルロス・ゴーン氏の夫人のこの一言から、世界初のAWDクロスオーバー・コンバーチブル「日産 ムラーノ クロスカブリオレ」は誕生した。発売当初は批評家に酷評され、深夜番組のネタにもされた。だが10年後の今、わずか6000台が生産された希少車として、コレクター垂涎のカルト的クラシックカーとして再評価されている。

◆CEO夫人の「オープンカーに乗りたい」から始まった
 「ムラーノでオープンエア走行がしたい」。日産ムラーノ クロスカブリオレは、当時CEOだったカルロス・ゴーン氏の妻、リタ・コルダヒ氏のこの一言がきっかけとされている。米メディアのスラッシュギアによると、実用性の高いSUVで風を感じたいという彼女の要望に、ゴーン氏は即座にゴーサインを出したという。

 こうして2011年、主にアメリカ市場向けに展開された、世界初にして唯一のAWDクロスオーバー・コンバーチブルが誕生する。米ホット・カーズによると、搭載されたのはスカイライン350GTや350Zと同じ3.5リッターV6エンジンで、最高出力は265馬力。フロントフェンダーから後方にかけてほぼ全面的な再設計が施され、4ドアから2ドアへと大胆に生まれ変わった。

 開発期間はわずか2年。同メディアによると、ゴーン氏は製品企画とエンジニアリングの精鋭チームに非常に厳しい期限を課したという。ターゲットは、V6とAWDの力強さに惹かれながらも、スポーツカーでは少し若者向けすぎると感じる層だ。市場から要望が上がってくるのを待たず、誰も見たことのない車を形にする。挑戦的なプロジェクトが動き出した。

◆「笑い者」から一転、コレクター垂涎のカルトクラシックに
 発売当時、批評家たちの反応は厳しかった。オープン化に伴う車体剛性の低下、後席の狭さ、4万5000ドル(現在のレートで約700万円)を超える価格設定。一部ネット上ではジョーク扱いされ、深夜のトーク番組でも格好のネタにされた。スラッシュギアは、3年後の2014年には販売不振のため早くも生産終了に追い込まれた、と不遇の歴史を振り返る。

 だが、その後ムラーノに熱い眼差しが集まるようになる。同メディアによれば、2018年頃から中古市場での需要が「驚くほど強い」状態へと転じた。希少性と大胆なデザインを評価するコレクターや愛好家の間で、カルト的クラシックカーとしての地位を確立したのだ。

 なぜ今になって再評価されているのか。米自動車メディアのオートピアンは「クロスオーバー・コンバーチブルは理にかなっている」と分析する。セダンからクロスオーバーSUVへと主役の座が移った現代において、快適で実用的でありながら屋根も開く車は貴重だ。その後、他メーカーからもコンバーチブルSUVが登場したことを考えると、クロスカブリオレは時代を先取りしすぎていた存在だったとも言える。

◆中古車なら約100万円の今が買い時
 生産期間は2011年から2014年までであり、総生産台数は約6000台にとどまる。ホット・カーズによると、新車価格は約4万5000ドルで、ハードトップ版より5000ドル高かった。こうした希少性が、現在のコレクター人気を支えている。

 だが2025年現在の中古市場では、意外なほど手頃な価格で入手できる。同メディアが引用したClassic.comのデータでは、2011年モデルの平均価格は1万1569ドル(約182万円)。オークションサイト「Bring a Trailer」では、走行距離9万1000マイルのものが6607ドル(約104万円)、走行5万6000マイルの好条件車でも1万1250ドル(約177万円)で取引成立している。

 スペック面の魅力も見逃せない。オートピアンによると、265馬力のVQエンジンを搭載し、約5000ポンド(約2300キロ)の車体を8秒ほどで時速60マイル(時速約100キロ)まで加速させる。快適な乗り心地で、高い着座位置のため視界も良好だ。

 修理には苦労もあるようだが、希少なカルトクラシックを狙うならまさに今が買い時だと、アメリカのコレクターの関心を集めている。

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Text by 青葉やまと