【中国レアアース規制】「日本から学べることは?」海外メディアが挙げる3つの教訓
ガドリニウム|LuYago / Shutterstock.com
アメリカのトランプ政権が打ち出した「相互関税」を端緒に、アメリカと中国の貿易摩擦が再び先鋭化した。中国はレアアースの輸出管理を強め、10月に示した規制強化は1年延期されたものの、既存の許可制を含めた運用の先行きはなお見えにくい。
こうした局面で米英メディアは、日本が2010年に受けた圧力と、その後の備えを参照点として持ち出す。日本は何を変え、何を変えきれなかったのか。各紙が「日本の経験は参考になる」と語るとき、具体的に何を教訓として挙げているのか。
◆2010年「供給ショック」が突きつけた現実
発端は2010年だ。尖閣諸島をめぐる衝突を受け、中国は公式には否定しながらも、日本向けのレアアース輸出を事実上停止した。自動車や電子機器の生産現場は混乱し、日本側は中国人船長を釈放することで事態の沈静化を図った。この出来事について、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、中国がレアアースという供給網上の優位を「強制の道具」として用いた最初期の例だったと位置づけている。
背景には、鉱物の確保だけでなく、精製や磁石製造まで含むバリューチェーンの偏在がある。WSJによれば、強力な永久磁石の基礎となるネオジム磁石は日本人研究者が開発したが、2000年代には中国が供給と精製、磁石製造を支配する側に回った。2009年時点で日本のレアアース輸入の85%が中国由来だったとされる。危機後、日本は供給先の分散を掲げたものの、依存低減は一筋縄ではいかなかった。実際、WSJは昨年時点でも日本が輸入の約70%を中国に頼っていたと報じ、部分的な依存削減では中国のレバレッジが残ると警告する。
◆教訓は3つ 短期は中国優位、脱中国は長期戦
海外メディアが共通して示す第一の教訓は、短期的には中国が主導権を握るという現実だ。英エコノミスト誌は、危機の瞬間には「中国がカードを持っている」と率直に書く。日本は当時、中国依存が約9割に達しており、供給が止まれば生産ラインが止まりかねない状況にあった。これは現在、輸出規制の影響を受けるアメリカやヨーロッパにも重なる構図だ。
第二の教訓は、脱中国が可能だとしても、それは長期戦であり、想像以上にコストがかかるという点である。米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、日本が中国外の供給網を築くうえで、政府支援の継続と国際協力が不可欠だと伝える。エコノミスト誌は、量の確保以上に「多種類」をそろえる難しさを強調する。重希土類が日本に届くまで時間がかかったことや、精製が高コストで環境負荷も大きく、受け入れ国が限られる点を挙げる。
第三の教訓として指摘されるのが、危機が去ると危機感も薄れるという点だ。WSJは、危機後に分散投資を進めても、完全な独立には数十億ドル単位の投資が必要になり、数千万ドル程度では足りないと示唆する。供給が戻れば、コスト優先の論理が勝ち、多角化の緊迫感がしぼむ危うさがある。
◆「武器」は鈍らせられる ただし痛みは残る
一方で、海外メディアは悲観一色ではない。エコノミスト誌は、備蓄や代替調達が「時間」を買い、2010年のような急激なパニックを和らげうるとする。そのうえで、中国の経済的武器は鈍らせられるが、打撃はなお重いと結論づける。NYTも、輸出を脅しに使うこと自体が信頼の問題となり、長期的には各国の依存低減を促す逆効果になりうるとの見方を紹介している。
日中間のレアアース問題が示すのは、資源が単なる経済財ではなく、地政学の中核に組み込まれているという現実である。海外メディアは、日本の経験を「教訓」として描きながら、同時にその難しさも強調する。経済の武器化が常態化する時代に、どこまで備えられるのか。その問いは、日本だけでなく国際社会全体に突きつけられている。




