完璧なパスタのゆで方 中性子とX線で解明した鍵

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著:Andrea Scottiルンド大学、Senior lecturer of Physical Chemistry)

 スパゲッティはアルデンテが好きでも、とろりと柔らかいのが好きでも、自宅で完璧な仕上がりにするのは難しい。多くの人が、特にグルテンフリーの代替品では、パスタがベージュ色のドロドロに崩れてしまった経験があるはずだ。

 では、最適な結果を出したいなら、水と塩は実際どれくらい必要で、どのくらいの時間ゆでればいいのか。また、グルテンフリーパスタを使うときには、どのように調理法を調整すべきなのか。私と同僚が最近行った研究で、学術誌「Food Hydrocolloids」に掲載されたものは、ゆでる過程の背後にある物理を明らかにすることで、その答えを示した。

 私たちはまず、イギリスの国立シンクロトロン放射光施設ダイヤモンド・ライト・ソースに向かい、施設内の円形加速器で得られる放射光を使って、パスタから散乱されるX線(低角散乱)を測定し、その内部構造を明らかにした。次に、イギリスとフランスにある中性子施設であるアイシスとラウエ・ランジュバン研究所に赴き、陽子とともに原子核を構成する中性子を用いて、さまざまな調理条件下における通常のスパゲッティとグルテンフリースパゲッティの微細構造を調べた。

 この研究から、パスタの隠れた構造がゆでている間にどのように変化するのか、そしてグルテンフリーのものがなぜこれほど違う振る舞いをするのかが分かった。

 この実験装置により、スパゲッティ内部のデンプンとグルテンの構造を、原子半径の数十倍から数千倍にわたる微小なスケールで調べることができた。このようにして、ゆですぎたり塩を入れずにゆでたりといった異なる条件で調理されたときに、通常のパスタとグルテンフリーパスタでどのような変化が起きるかを比較できた。

 私たちの実験では、パスタを構成するさまざまな成分を個別に「見る」ことができた。通常の水と、重水(デューテリウムという同位体を含む水)を混ぜることで、グルテンかデンプンのどちらか一方を中性子ビームに対して見えなくすることができた。この方法により、各構造を順番に実質的に切り離して、調理中にデンプンとグルテンが及ぼす影響を理解できた。

◆グルテンと塩の力
 私たちの研究から、通常のパスタでは、グルテンが強固な足場として働き、ゆでている間もデンプン粒をその場に留めることで、パスタの歯ごたえや消化の遅さを生み出していることが分かった。グルテンフリーパスタでは、デンプン粒がより膨張しやすく、また崩壊しやすく、そのために、条件が最適でないときにこの種のパスタがべちゃっとした食感になり、より速く分解してしまうことが説明できる。

 私たちは、ゆでる水に含まれる塩がパスタの構造に与える影響も調べた。分かったのは、塩はパスタの味を良くするだけでなく、スパゲッティの微細構造にも強く作用するということだ。通常のパスタを塩入りの湯でゆでると、グルテンが構造を保ち、デンプン粒が調理過程によって受ける損傷も少なくなる。

 では、パスタの微視的な構造を保つには、どれくらいの塩を加えればよいのか。私たちの研究から、最適な塩分量は水1リットルあたり7グラムであり、パスタの量が多いほど多くの水が必要になることが分かった。ゆで時間は、通常のパスタの場合10分、グルテンフリーの代替品の場合11分が望ましい。一方で、塩の濃度を2倍にすると、内部の秩序はより速く崩れ、デンプン粒内部の構造は調理によって大きく変化した。

 グルテンフリーパスタでは、グルテンによる保護がないため、話はさらに違ってくる。少量の塩を加えた程度では、グルテンの不在を埋め合わせることはできなかった。企業がグルテンの代わりに用いている加工デンプンの人工的な化合物は、急速に劣化した。この劣化が最も顕著に現れたのは、グルテンフリースパゲッティを本来の11分ではなく13分のようにゆですぎ、しかも非常にしょっぱい湯で調理した場合だった。

 したがって、主要な発見は、グルテンフリーパスタは構造的により脆弱であり、ゆで時間が長すぎたり塩の量が適切でなかったりすることに対する許容度が低いという点だった。

◆グルテンフリー代替品の改良
 顕微鏡でも見えないほど小さなスケールでパスタの構造を理解することは、より優れたグルテンフリー食品の設計に役立つ。とりわけ、悪い調理条件にもより強く、食感が通常のスパゲッティにさらに近いグルテンフリーの代替品を得られることが期待されている。

 小麦の通常のパスタは、グルテンが消化の過程でデンプン粒の分解を遅らせるため、グリセミック・インデックス(血糖指数)が低い。米粉やトウモロコシ粉から作られたグルテンフリーパスタには、このような構造がしばしば欠けており、糖がより速く放出される可能性がある。中性子散乱を用いることで、食品科学者はグルテンの構造を最もうまく再現する原料と調理条件を特定できるようになった。

 これはまた、主に基礎研究に使われてきた最先端の実験ツールが、どのように食品研究を変えつつあるかという物語でもある。中性子散乱は、磁性材料や電池、高分子、タンパク質に対する私たちの理解を深めるうえで基本的な役割を果たしてきた。いまやそれは、身近な食品が微視的なレベルでどのように振る舞うのかを説明する助けにもなっている。

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by NewSphere newsroom

The Conversation

Text by Andrea Scotti