野生トラの危機 違法取引加速で個体数3700〜5500頭に 月9頭ペースで押収
コロラド州の国立野生生物押収品保管施設に保管されている、違法取引されたヒョウとトラの頭(2015年10月20日)|Brennan Linsley / AP Photo
過去5年間に世界各国の当局が押収したトラは、月平均で9頭に上ることが、11月25日に公表された調査で分かった。これは、地球上でもっとも象徴的な種の一つであるトラの存続を脅かす違法取引の危機が悪化していることを浮き彫りにしている。
野生生物取引の監視ネットワーク「トラフィック(TRAFFIC)」の新しい報告書は、保全対策が追いつかないほどの速さで犯罪ネットワークが進化していると警告している。世界の野生のトラの個体数は、1世紀前には約10万頭とされていたが、現在は推定3700〜5500頭にまで激減しているという。
半世紀にわたる国際的な保護にもかかわらず、トラフィックの分析によると、トラの違法取引は加速しており、生きている個体も死んだ個体も含め、個体丸ごとを狙う傾向が強まっている。専門家は、この変化は飼育繁殖施設の存在と関連しているとみているが、密猟直後、あるいは解体されて部位ごとに分けられる前の段階で押収されるケースが増えたことを反映している可能性もあると指摘する。さらに、エキゾチックペットとしての需要や剥製の需要の高まりが背景にある可能性もあるという。
この報告書は、トラフィックがトラの違法取引を調査する「スキン・アンド・ボーンズ」シリーズの第6弾で、鮮明な傾向を示している。2000年から2025年半ばまでの間に、世界各地の法執行機関が記録した押収事案は2551件に上り、少なくとも3808頭分のトラが関与していた。
2020年から2025年6月までのわずか5年間だけでも、当局は765件の押収を行い、トラ573頭分に相当する量を没収した。これは66か月間で月平均およそ9頭に当たる。最悪の年は2019年で141件の押収が記録され、次いで2023年の139件だった。
押収事案の大半は、野生トラが生息する13カ国で発生しており、その中心は世界最大のトラ個体群を抱えるインドで、中国、インドネシア、ベトナムが続く。野生トラがいない国の中では、メキシコ、アメリカ、イギリスから相当数の事案が報告されているという。取り締まりは強化されている一方で、取引自体も同じように拡大している。
「押収件数の増加は、取り締まり努力の向上を反映していると同時に、犯罪行為が根強く、一部ではむしろエスカレートしていること、そしてトラおよびその部位に対する需要が広く存在していることを示している」と、報告書の共著者で上級野生生物犯罪アナリストのラマチャンドラ・ウォン氏は述べている。
トラフィックの最新の分析は、劇的な変化を明らかにしている。2000年代には、押収された品の9割が皮や骨などトラの部位だったが、2020年以降はその割合が6割にまで低下し、その代わりに、死体丸ごとや生きたトラの押収が急増している。ベトナム、タイ、インドネシア、ロシアなどでは、現在では押収事案の4割超がトラ1頭丸ごとを含んでいる。
報告書は、優先的に介入すべき根深いホットスポットも特定している。インドとバングラデシュのトラ保護区、インドネシアのアチェ地域、ベトナム・ラオス国境地帯、さらにハノイやホーチミン市を含むベトナムの主要な消費拠点などである。
報告書はまた、「種の収束」と呼ばれる現象の広がりも記録している。トラ密輸事件のおよそ5件に1件で、他の絶滅のおそれのある野生生物も同時に取引されており、もっとも多いのはヒョウ、クマ、センザンコウだという。
消費のパターンは地域によって大きく異なる。メキシコやアメリカでは、生きたトラへの需要が高く、多くはエキゾチックペットとして飼う目的だ。ヨーロッパでは、一部の伝統薬や装飾用の剥製に用いられるトラ由来製品の市場が強い。アジア全域では、ファッションや伝統医療のために、毛皮や骨、爪、死んだトラの全身など、さまざまな形で需要が存在している。
報告書は、捜査は押収の時点で終わるべきではないと指摘する。強固な国際協力が不可欠であり、情報主導型で複数機関が連携した法執行によって、違法取引のサプライチェーンに沿って組織犯罪ネットワークを断ち切ることが重要だとしている。
環境保護団体WWF(世界自然保護基金)の野生生物保全ディレクターであるリー・ヘンリー氏はAP通信に対し、丸ごとの個体の取引が急増していることは、「違法取引に供給し、それを持続させるうえで、飼育下のトラ繁殖施設が大きな役割を果たしていることを浮き彫りにしている」と語った。
「違法取引は、いまなお野生のトラにとってもっとも差し迫った脅威であり続けている。取引のあらゆる段階でトラの違法取引と闘うための投資を早急に大幅拡大しなければ、野生のトラがいない世界という現実に直面することになりかねない」と述べた。
By EILEEN NG




