北海海底にCO2を貯留へ 枯渇油田が「地下倉庫」に 2030年に年800万トン目指す
イネオス・エナジーのシリプラットフォーム|James Brooks / AP Photo
最初は地平線上の小さな点として見えるが、やがてヘリコプターの窓から、ヨーロッパの荒々しい北海にある人里離れたニニ油田がゆっくりと姿を現す。
これまで化石燃料を採掘するために使われてきたこの油田は、今では地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を海底下に恒久的に貯留する手段として、第二の役割を与えられようとしている。
石油採掘とはほとんど逆のプロセスで、化学大手イネオス(INEOS)は、枯渇した油層に液化したCO2を注入する計画だ。場所は海底から1800メートル下の深部である。
AP通信は今回、無人のニニ油田に近いシリ(Siri)プラットフォームを異例の取材で訪れた。ここは、イネオスが「グリーンサンド・フューチャー(Greensand Future)」と名付けた二酸化炭素回収・貯留(CCS)事業の最終拠点だ。
このプロジェクトが来年商業運転を開始すれば、グリーンサンドは欧州連合(EU)で初めての本格稼働する洋上CO2貯留サイトになると見込まれている。
環境保護団体は、CCSは気候変動対策の一つとして一定の役割を果たし得るとしながらも、産業界が排出削減を避ける口実にしてはならないと指摘している。
◆今後の計画
イネオス・エナジー・ヨーロッパの最高経営責任者(CEO)マッズ・ゲード氏によると、当初は年間約36万3000トンのCO2を貯留し、2030年までに年間最大約730万トンまで拡大する計画だという。
「デンマークには、自国の排出量を数百年分上回るCO2を実際に貯留できる潜在力があります」とゲード氏は話す。「ここでヨーロッパの多くのCO2を貯めることで、欧州を支える産業をつくることができるのです」
グリーンサンドは、デンマーク国内のバイオガス施設と、そこから回収した炭素排出をニニ油田の枯渇油層に埋め込む契約を結んでいる。
液化したガスを一時的に貯蔵する「CO2ターミナル」も、デンマーク・ユトランド半島西岸のエスビャウ港で建設が進められている。
専用の運搬船「カーボン・デストロイヤー1」も、オランダで建造中だ。
◆気候対策として
炭素回収技術の推進派は、気候変動を最も促進している温室効果ガスを除去し、地下深くに埋設できることから、これを気候危機の解決策だと主張している。
彼らはまた、世界の気候科学者を束ねる政府間機関である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、この技術を地球温暖化との闘いにおける一つの手段だと位置付けていることも指摘する。
EUは、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロ(ネットゼロ)にする計画の一環として、2040年までに年間少なくとも約2億2700万トンのCO2貯留能力を整備することを提案している。
ゲード氏は、炭素回収・貯留は排出削減のための最良の手段の一つだと語る。
「私たちはヨーロッパの産業空洞化を望んでいるわけではありません」と同氏。「その代わりに、脱炭素を進めるためのいくつかの手段を持ちたいのです」
デンマーク地質調査所の専門家によれば、グリーンサンドの砂岩層は液化CO2の貯留に非常に適しているという。「岩石体積のおよそ3分の1が小さな空隙で構成されています」と、デンマーク・グリーンランド地質調査所の上級研究員ニールス・ショウスボ氏は説明する。
「貯留層と注入したCO2との間に反応は起こらないことが分かりました。また、その上にあるシール岩(ふたとなる岩盤)は、地下にCO2を貯蔵した際に生じる圧力に十分耐えられることも確認しました」とショウスボ氏は付け加えた。
「この二つの特性により、ここはCO2貯留にとって理想的な場所になるのです」
◆限界と批判
しかし、世界各地に炭素回収施設があるとはいえ、この技術はまだ大規模化には程遠く、運転に化石燃料由来のエネルギーを用いる場合もあり、実際に回収しているのは世界全体の排出量のごく一部にすぎない。
グリーンサンド計画は、2030年までに年間最大約730万トンのCO2を地中に埋設することを目標としている。一方、国際エネルギー機関(IEA)によれば、昨年世界で排出されたCO2は約345億トンに達した。
環境団体の活動家らは、CCSが産業界にとって排出削減を先延ばしにする口実として利用されてきたと批判する。
「排出削減が本当に難しいか、ほとんど不可能なごく少数の分野に限ってCCSを導入する、というのはあり得るでしょう」と、グリーンピース・デンマークで気候・環境政策を担当するヘレーネ・ハーゲル氏は話す。
「しかし社会のあらゆる部門が、排出を減らす代わりにとにかく捕まえて貯蔵すればいいと言い始めている状況こそが問題なのです」
この化学大手はCO2貯留の取り組みを加速させる一方で、これまで開発されてこなかった別の北海油田の開発も始めたいと考えている。
同社の計画を擁護する形でゲード氏は次のように述べた。「より高い環境フットプリントを伴うエネルギーを輸入するよりも、国内や地域で石油・ガスを生産する方が、移行期にとってはるかに重要なのです」
「ヨーロッパが移行を進めていくその一定期間、この取り組みを行うことには意味があると考えています」
By JAMES BROOKS




