内省:成功を願うビジネスリーダーこそ学ぶべき孔子の教え
著:Khatera Sahibzada(南カリフォルニア大学 Adjunct Lecturer)
リーダーに求められる資質の中で、何よりも称賛に値するものでありながら、どうしても軽んじられているもの、それは自らを省みる力である。しかし孔子は言う、人が英知を得る手段の中で、この「内省/リフレクション」こそが、最も高貴な方法であると。
何があれば人はリーダーとして成功できるのか。この問いかけに対し人々は革新性や戦略性、危機管理能力といった資質を決まって口にする。優れたリーダーを形成する資質として「内省」を口にする者はほとんどいない。
しかし、自らの決定や行動または知識を省みる能力が人々を成功へ導いてきたことは確かである。例を挙げると、メディア界きっての大物アリアナ・ハフィントン氏は、このリフレクションを各々が持つ知恵と創造性を結びつける方法として推奨している。莫大な資産を持つ投資家レイ・ダリオ氏もまた、自らの苦境を省みたことが世界最大のヘッジファンド・ブリッジウォーターを創業する助けになったと考えているのだ。
リフレクションは、問題の解決と目標の達成により重点を置くクリティカルシンキング(批判的思考)とは異なるものである。リフレクティブシンキング(内省的思考)は、人々が自らの内にある信念や思い込みを把握し、またそれらがどのようにして自らの決定に影響を与えるか、問題解決において機能するか、行動の要因となるかについて理解する手立てとなるものである。
現在筆者はコンサルティング業に携わり、優秀な成績が見込める人材・成長株を企業が選出できるよう支援しているが、その中で企業からは、利益相反のバランスを保つ一方で「正しい」決断を迅速に躊躇なく下せるリーダーを求める声が多く寄せられている。
急速な変化を遂げるこの世界において、リーダーとしての成否の鍵を握る重要な資質のひとつとして自らとじっくり向かい合う力が求められるということは、企業にとってはにわかには信じ難いものかもしれない。しかし、この正しさを示す証拠は次々と現れているのである。
◆リフレクションが持つ力
リフレクションの力を直観的に理解しているのが医師たちである。医師たちは生死に関わる決断を一瞬の内に下さなければならない。先のわからない難局を自ら切り開くのに役立つ術が必要とされるのだ。
リフレクションを正規カリキュラムへ組み込んだロヨラ大学シカゴ校医学部の研究者により生命倫理学教育におけるその役割が論じられた2015年の論文では、この内省するという能力がやがて医師になる者たちにとって「必要不可欠」なものであり、「倫理的にも職業的にも、優れた洞察力や感性」の発展に寄与するものであるということが論じられている。
それゆえ、同校医学部の学生は小グループ制のセッションに参加し、リフレクションをテーマに「あなたは何にインスパイアされたのか?」や「自らがなりたいと思っている医師像に自分が近付いていると感じるか?」といった問いのもと、自分たちが授業を通じて経験したことを分析する課題に取り組んでいる。
そして、これまでに参加した学生の大部分からは、この取り組みが職業的にも個人的にも自らの成長に役立ったと言う声が寄せられてきた。
同様に、タフツ大学医学部とボストンカレッジの研究者により1年間にわたって行われた研究では、医師—患者間の相互関係性におけるリフレクションの役割が調査された。患者に接する際の声のトーン、またそれが情報を提供しようとする患者の意志にもたらす影響についてじっくりと検討を重ねた医師には患者との意思疎通において改善が見られ、医師自らが気付き感じたことよりも患者自身が実際に経験したことに重点が置かれるようになった。
またハーバード・ビジネス・スクールの研究者によると、リフレクションには、コミュニケーションに際し認識力及び注意力を向上させる可能性がある他にも、課題を達成する力への自信を強めたり、課題の理解度を向上させたりする力があるという。さらに驚くかもしれないが、ある仕事を終えた後に自らを振り返る時間を取ることで、同じ仕事を再度経験する以上に成果を高められるということも確認されている。
◆1日に15分
このようにリフレクションの利点を示す証拠が明らかになってきているにも関わらず、なぜこの行動に取り組むリーダーの数が増えないのだろうか?
多くの理由があるだろうが、はっきりとしているのは意欲と時間が足りていないということだろう。行動科学者によると、大半の人々は自らの思考にひとり向き合うよりも、外的な行動に従事することを好むという。
ブラジル・フランス・ドイツ・インド・イギリス・アメリカの最高経営責任者(CEO)1,114人を対象に、就業日1日の過ごし方を調査した研究がある。それによると、CEOたちは平均しておよそ70%の時間を対面/非対面いずれかの形で他人と接することに費やしていた。また、それ以外の時間もこういった他人との交流に関する活動、例えば移動や会合の準備といったものに主として費やされていた。
これでは集中してリフレクションに取り組む時間はそう多くは取れない。しかしそれでも、リフレクションを行う時間を用意することで利益が得られると理解しているリーダーは存在する。
例えばバクスター・インターナショナルの前CEOハリー・クレーマー氏は毎晩リフレクションに取り組む時間を設け、「もう一度今日を生きるとしたら、何をどう違うように行動するだろう?」といったように、自らを振り返る質問に向き合っている。
クレーマー氏はリフレクションをパーソナルな行為と考えているため、何か特定のやり方を推奨するということはない。しかし氏は、リーダーたちは1日に15分でもいいからリフレクションに時間を割くべきだ、と強く提言している。興味深いことに、1日の終わりに15分間自らを振り返ることで、実際に成果の向上が見られることが一部の研究からも明らかになっている。
スパンクス創業者のサラ・ブレイクリー氏はリフレクションの手段としてジャーナリングを活用している。あるインタビューでブレイクリー氏は、自らの身に降り掛かったあらゆる「ひどい出来事」で20冊ものノートを埋め尽くした、と語り次のように述べている。
「自らの身に降り掛かったどんなひどい出来事にも、必ず何か良いことが隠れていて、自分をより良い方向へ導いてくれるものです」
最良の学びが、静かにリフレクションに取り組んでいる間に生まれるという考えは、テキサス大学オースティン校による研究からも裏付けられるものである。同研究はリフレクションによってその後の学習の質が高められるかどうかを検証するものであった。被験者には複数の暗記課題が課され、各課題の合間には何について考えてもよいという時間が与えられた。この合間の時間に学習内容を振り返った被験者は、新たな情報を既知の内容と結びつける能力においてより優れた成果を収めたのであった。
◆いかにして自分のものとするか
では、どのようにすればこのリフレクションの持つ力を自分のものにすることができるのだろうか?
その鍵は「なぜ?」よりも「何?」を問うことにある、と組織心理学者のターシャ・ユーリック氏は言う。「なぜこのようなことが起きたのか?」と問うのではなく、「もう一度同じことが起きないようにするため、自分には何ができるだろう?」と問うのである。
「何?」を問うことで私たちは思考のループから抜け出し、客観性を保った上で未来に意識を向けられるようになる。個々人が「俯瞰的視点」を取り、観察者として物事を見れば、自信の深まりが得られ、ストレスの元に対しより効果的な対応を取ることが可能になるのだ。
省察的探求に対して普遍的なアプローチというものはひとつとして存在しない。自らに最もしっくりくる方法を調べ、日々それを実践すればよい。まずはちょっとした課題や比較的安定した状態を対象に始めてみよう。
「すぐに、正しく」身につける必要は無いのである。最終的な目標は、自分が自らの人生・経験のアクティブな参加者であると同時に、その観察者でもいられるようにすることなのだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by So Suzuki