ヒトとネアンデルタール人がキスをしていた可能性 新分析が示す2100万年前からの系譜

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 イギリスのオックスフォード大学は19日、ヒトと大型類人猿の共通祖先で約2150万~1690万年前に「キス(口と口の非攻撃的接触)」が成立していた可能性が高く、ネアンデルタール人もキスしていたと推定する研究結果を発表した。論文は同日、学術誌「Evolution and Human Behavior」に掲載された。

 研究チームは、チンパンジー、ボノボ、オランウータンなどアフリカ、ヨーロッパ、アジアに分布するサルや類人猿におけるキス行動の観察記録を収集し、キスを「食物移送を伴わない、非攻撃的な口と口の接触」と定義。霊長類の系統樹上でこれを「形質」としてマッピングし、ベイズモデルによる1000万回のシミュレーションで祖先種における出現確率を推定した。その結果、大型類人猿の共通祖先の段階でキスが獲得され、その後も多くの系統で保持されてきたと結論づけた。

 ネアンデルタール人をめぐる推定は、これまでの研究でヒトとネアンデルタール人の交雑(遺伝子の共有)や、唾液を介した口腔微生物の共有が示されていることと整合する。これらの証拠を総合すると、両者の間にキス行動が存在した可能性が高いという。

 一方で著者らは、大型類人猿以外の記録が乏しいことなど現行データの限界も指摘。人間社会についても、既存の民族誌的記録に基づけば「キス」は世界の文化の46%でしか文書化されていないとして、文化差と行動の多様性を踏まえた追加調査の必要性を強調する。霊長類での記載基準をそろえた今回の枠組みは、化石化しない社会行動を進化学の視点で推定する手法として今後の研究基盤になるとした。

 本研究はオックスフォード大学生物学科のマチルダ・ブリンドル研究員らが主導。著者らは、キスには感染症リスクなどの進化的コストがある一方で、その社会的・適応的機能には未解明の点が多いと指摘し、観察データの拡充と理論の検証を呼びかけている。

出典:オックスフォード大学プレスリリース

Text by 白石千尋