生産的なビジネスミーティングの実現の鍵をレゴブロックが握っている理由
著:Sean Mccusker(ノーサンブリア大学 Associate Professor in Education)
レゴが小さなプラスチック製のブロックの特許を取得して早60年が経過した。それ以来、今日までに6,000億個以上のレゴブロックが生産されている。これらのブロックは、世界中の「レゴイスト」達の豊かな想像力を形あるものにし、夢のスーパーカー、映画「スター・ウォーズ」のデススターなど、数多くの作品を組み立てるのに使われてきた。
レゴブロックはただの子供のおもちゃに過ぎない、という人もいれば、大人になればレゴブロック遊びなんて卒業だ、という人もいる。私の仕事では、大人になり、きちんとした職に就いている人たちに、心に思い浮かんだものを何でもいいからレゴブロックで作ってみるように説得する必要がしばしば生じている。
レゴ・シリアスプレイの認定ファシリテーターとして、私は人々にレゴブロックを使ってそれぞれの思い、考え、もしくは感情を形にするようお願いしている。私はEUの資金提供を受けたプロジェクトを通じ、レゴ・シリアスプレイのコンセプトを知った。そして、様々なグループ内で忌憚のない意見を交わし合うことのできる環境を築こうとするときに、レゴの威力を目の当たりにすることとなった。
プレイへの参加を通じて、参加者が創造的になるよう積極的に促すことは「レゴ・シリアスプレイ」の持つ1つの側面だ。そうすることで、参加者たちは、日頃自らが築いている心のバリアを取り払い、より自然で何の制約も受けないやり方で周りの人と接するようになる。そして、普段は使わない話し方や表現を自然と使うようになることが知られている。人は、遊びに夢中になっている時、普段は言わないこと、やらないことでも、口にしたり、実際にやってみたりするものなのだ。そして、いつもは言わないことが口をついて出て来るようになれば、普段は心に留め置いて誰にも話さないような自分の思いや考えを、ぽつぽつと他の人に語るようになる。
◆真剣に遊ぶ、ということ
レゴ・シリアスプレイのメソッドでは、参加者に、レゴブロックを使って、自分の思考を象徴的に、もしくは隠喩的に表現しているモデルをまず作ってもらう。こうして、他の人からの干渉を一切受けることのない空間が与えられ、心ゆくまで自分の考えを見つめることができるようになる。従って、モデルを作り終えてから人々が自分の考えを発表するように求められたとき、そこにあるモデルは既に完成されたものであり、自分に対する他人の見方に迎合したり、その見方におもねったりするような変更は何も加えられていない。つまり、ありのままの自分の考えがそのモデルに表現されていることになる。すると、このモデル作りによって、参加者たちは互いの本音や正直な意見を交わし合うことが出来るようになる。
もちろん、作られたモデルそのものは、その場にいる他の参加者たちにはほとんど意味のないものだが、他の参加者を前にして、その作者がモデルに込めた考えを説明するとき、初めてその重要性と意義が明らかになる。そして、レゴ・シリアスプレイのワークショップでは、モデルの作者が話をするときは、全員でその話をしっかりと聞くことが決まり事の1つになっている。また、参加者たちは、モデルの作者が説明した内容を越えてそのモデルの意味を自分勝手に推論して決めつけることも許されていない。
この状況下では、モデルの作者は、組織における階層での自分のポジションに関係なく、そのモデルに関する一番のエキスパートである。参加者の誰もが疑念を挟んだり、勝手な解釈を加えたりすることなく作者の話を受け入れることが求められる。こうして、ディスカッションに参加する全員がそれぞれ抱く意見は全員平等に聞き入れられ、等しい評価を受けられるようになる。
◆共有、協力、思いやり
複数の人が関わる問題を解決しようとする時に直面するありがちな障害の1つは、それぞれの当事者はその問題を同じようには認識していない、ということが挙げられる。そのため、多種多様な問題に対し、たった一つの解決策のみを模索してしまいがちである。
ここで、レゴブロックと真剣に向き合うことが大いに役立つ。なぜならば、参加者たちは自分の考えを具現する「形あるもの」をレゴブロックで組み立て、同じく他の参加者たちが作ったモデルと一緒に並べる。こうして、各々のアイデアがくまなく明示され、全員で共有され、全体での連帯感が生まれて育まれることになる。
このプロセスを通じ、様々に異なり、また、ばらばらだったアイデアを一か所にまとめて持ってくることができるようになる。個々のモデルを互いに接続し、全員で共有する単一のモデルを組み立てることもできる。参加者としての自覚と連帯意識が芽生えることになる。結果として得られた共有モデルは、伸ばせば数メートルもの長さになり、問題の発端から提示し得る解決策に至るまで、複雑な問題のあらゆる局面を人々がどのように捉えているのかを表わす単一のビジョンを示すものとなる。
その後、参加者たちは、モデル全体を説明する単一のストーリーを組み立てるためにディスカッションの時間を設けるよう指示される。レゴの魔法が起きるのがここだ。私はこれまで、文化的、教育的および専門的な観点で異なる立場にある最大12人までのグループの参加者たちが最終的に、個々の問題に対する共通の見解を抱くようになり、また、どのようにその問題に対処していくのかを多数見てきた。このような成果は、様々な環境がある中、なかなか得られるものではない。
◆レゴで未来を組み立てる
私はこの5年間、レゴ・シリアスプレイのメソッドをイギリス、中国、マレーシア、そしてアメリカで適用してきた。これまで、中小企業の従業員、教育実習生や国際的な研究に携わる人たちなど、実に様々な環境下にいる人々がレゴで遊ぶ様子を見てきた。いずれの場合でも、複雑で抽象的なアイデアを表わすモデルを作ろう、となった時、最初は半信半疑、遊び半分で浮かない顔をしていた参加者も、モデル作りに深く引き込まれ、作業に没頭するようになることを私は知っている。
参加者たちは口々に、このメソッドがどのようにして自身が普段は表現しないことを他の人に伝えられるようにしてくれたのかを、驚きと共に私に教えてくれる。さらに、他の人たちがどのように世界を見ているか、そして、人々のアイデアが互いにどのように関連しているのかをどのように明確に理解し得たのかを熱く私に語ってくれる。このようにして、レゴの助けを借り、従来の会議や討論のもつ欠陥を克服することができる。
オーレ・キアク・クリスチャンセン氏が1932年に会社を創業したとき、「よく遊ぶ」という意味のデンマーク語の言い回しである「leg godt」の省略形、「Lego」を同社の名称とした。1958年に特許を取得した「トイ・ビルディング・エレメント(おもちゃの組み立て用部品)」によって、世代の老若を問わず誰もが簡単に作品を組み立てて楽しめるようになったことは間違いない。そして、私は、たとえ自分はもうすっかり大人だ、と思うようになっても、生涯を通じて「よく遊ぶ」ことを継続することはとても大切だ、と個人的に思っている。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ka28310 via Conyac