「放射能津波」で沿岸都市壊滅? プーチンの“超兵器”ポセイドンは本当に脅威なのか

ロシア国防省が公開した核動力魚雷「ポセイドン」とされる兵器の映像から。後部構造の一部が映し出されている|Russian DoD / Wikimedia Commons

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、核動力の巡航ミサイル「Burevestnik(ブレベストニク)」と水中魚雷「Poseidon(ポセイドン)」の試験が相次いで成功したと主張している。「迎撃不可能」と豪語したが、軍事専門家や核の専門家からは冷ややかな反応が相次いでいる。

◆「迎撃方法は存在しない」プーチン氏は豪語
 プーチン氏は10月29日、モスクワの軍病院でウクライナ戦争で負傷した兵士らを前に、核動力の水中魚雷ポセイドンのテストに成功したと発表した。ワシントン・ポスト紙(WP)によると、プーチン氏は「このようなものは存在せず、当分の間、登場することもない。迎撃方法は存在しない」と豪語している。

 ポセイドンは全長約21メートルの巨大な魚雷で、ロシア最大の潜水艦にも搭載できないため、専用の潜水艦から発射される。英BBCによると、2018年の発表当時、ロシアのメディアはポセイドンが時速200キロメートルで移動し、「絶えず変化する航路」をたどることで迎撃を不可能にすると伝えていた。ロシア側の説明では、海軍基地や港湾といった重要な沿岸インフラを破壊する目的で、高いステルス性で水中を移動するよう設計されている。

 WPは、2020年にアメリカ国務省の当局者が、ポセイドンは「アメリカの沿岸都市を放射能津波で水没させる」よう設計されていると述べたと報じている。核爆発で津波を発生させ、放射能で汚染された海水で沿岸を破壊するという理論だ。

◆専門家が一蹴「革命的なものは何もない」
 だが、軍事専門家や核の専門家は冷ややかだ。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの取材に応じた国連軍縮研究所のロシア核戦力プロジェクトのディレクター、パヴェル・ポドヴィグ氏は、ブレベストニクについて「革命的なものは何もない」と一蹴した。「長く遠くまで飛行できるという点で目新しさはあるが、プーチン氏の主張を裏付けるものは何もない」とポドヴィグ氏は指摘する。

 WPによると、ポセイドンが生み出すとされる「放射能津波」についても、専門家は懐疑的だ。海底の大陸棚が爆発エネルギーの大部分を吸収してしまい、津波に至るかには疑問符が付く。ポドヴィグ氏は同紙に対し、「ソ連が実際に、津波のような波を使って沿岸施設を破壊するアイデアを研究していたことを思い起こす価値がある。何度も研究した。そして毎回、機能しないという結論に達した。ある研究では、そのアイデアを『不合理』と呼んでいる」と振り返る。

◆ウクライナでの苦戦から目を逸らす目的か
 アルジャジーラは、ブレベストニクのテストは過去12回のうち2回しか成功しておらず、2019年のテストでは、放射性物質を伴う爆発により少なくとも5人の核技術者が死亡したと報じている。ロシアの国営原子力機関は死亡を認めたものの、詳細は公表していない。

 では、なぜプーチン氏は実効性に疑問符のつく「超兵器」を、わざわざ今の時期に誇示したのか。専門家は、ウクライナ戦線での苦戦を覆い隠すための宣伝戦術だと分析している。BBCは、ロシアの全面侵攻開始から3年半以上が経過したが、ロシア軍は膨大な犠牲と資源を払いながらも、明確な突破口は見えないまま、ただ前進を続けているにすぎないと指摘する。

 専門家は、実用化には程遠い兵器を「成功」として発表する背景には、戦場での劣勢を隠す狙いがあるとみている。

Text by 青葉やまと