インドネシア高速鉄道、「時限爆弾」化の恐れ 24年390億円、25年上半期150億円赤字

Achmad Ibrahim / AP Photo

 中国の融資で作られた、インドネシアの高速鉄道の赤字が膨らんでいる。中国の「一帯一路」構想の旗艦プロジェクトとして、またインドネシアの大規模なインフラ整備計画の一環として多大な期待が寄せられてきたが、乗客需要は低迷。国庫と国有企業ネットワークへの負担増大の懸念が高まり、現政権の頭痛の種となっている。

◆赤字深刻 政府の財政にも影響か?
 インドネシアの高速鉄道「Whoosh(ウーシュ)」は、ジョコ・ウィドド前大統領のインフラ推進政策の中核となるプロジェクトとして総額約120.5兆ルピア(約1.1兆円)を投じて建設された。東南アジア初の高速鉄道サービスとして2023年10月に開業し、時速350キロで首都ジャカルタと西ジャワ州バンドンを結ぶ約143キロの区間を45分で走る。プロジェクトの費用の4分の3は中国からの融資で賄われており、習近平国家主席とジョコ前大統領のもとで、両国の国有企業が共同で開発した。

 しかし「ウーシュ」の60%を所有するインドネシア企業連合は、2024年に4兆2000億ルピア(約390億円)の損失を計上。2025年上半期にはさらに1兆6000億ルピア(約150億円)の赤字を報告した。プロジェクトの債務には国家保証が付く形となっており、インドネシアの財政を逼迫させる恐れがあるとの指摘が出ている(英フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)。インドネシアの経済法研究センター(Celios)の中国・インドネシア担当部長、ズルフィカル・ラクマット氏も、放置すればその影響は公的財政、国有企業、投資家信頼感に波及する恐れがあるとしている(シンガポール経済紙ビジネス・タイムズ、以下BT)。

◆予測が甘かった…… 乗客数伸びず
 莫大な赤字の主因は需要の低迷にある。国会での証言によれば、旅客数は当初予測の約3分の1にとどまっている(FT)。ジャカルタ・ポスト紙(社説、以下JT)によると、2023年10月17日の開業から2025年7月末までの累計は約1070万人で、1日平均は約1万6000人と当初目標の約半分にとどまる。約143キロを45分で結ぶ高速性はあるものの、主要駅が都心部から離れていることが利用のネックとなっているとの指摘が多い。通常日の稼働率は70%〜80%で、満席は長期休暇時に限られる(BT)。

 また、政府の財政支援は適用されていないとされ、運賃は在来線より割高で、最安運賃は25万ルピア(約2300円)と在来線の5倍超だ(FT)。なお、在来線比でエコノミークラス約30%高、ビジネスクラス約150%高との指摘もある(BT)。

 国有鉄道オペレーターのKAIのボビー・ラシディン最高経営責任者(CEO)は、議会公聴会で「ウーシュは時限爆弾だ」と発言し、債務負担が管理できないレベルになることへの懸念を示した。政府は国家予算による直接救済を否定する一方で、インドネシア国営企業を統括する新設の政府系持株「ダナンタラ」が介入し、返済期間・金利・通貨を論点に中国側と債務再編交渉を行っている。(FT)

 需要動向に合わせてダイヤが調整され、平日の運転本数は62本から56本へ。公式には保守時間の確保が目的と説明されている(JT)。

◆甘い見通しで自滅? 延伸計画に懸念も
 経済金融開発研究所のエコ・リスティヤント副所長は、当初からこれほど近い2都市間に高速鉄道が必要かには疑問が多かったと述べる。入札時、日本は政府保証と引き換えに0.1%、中国は保証不要で2%を提示し、インドネシアは保証不要を理由に中国案を選んだと説明している。FTは、この選定は波紋を広げたと報じている。その後、建設費の膨張で国家関与・保証が容認されるに至り、債務の扱いが財政上の論点となった。(FT)

 財政難にもかかわらず、プラボウォ・スビアント大統領はウーシュの延伸に前向きな姿勢を見せている。JTの社説は、政府は初期プロジェクトの過ちから学び、資金調達を含む包括的な実現可能性調査を経てから建設を承認すべきだと提言している。

(円換算は概算。1円=108ルピアで計算。端数は四捨五入)

Text by 山川 真智子