ルーヴルだけではない、仏で教会狙う窃盗が加速 3年で約30%増

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 フランス・パリのルーヴル美術館で10月19日、推定総額8800万ユーロ(約155億円)相当の宝飾品が盗まれる事件が起きた。これにより、美術館を狙う窃盗への警戒が高まっているが、近年増えているのは美術館だけではなく、教会やチャペルといった宗教施設も同様だ。

◆相次ぐ美術・博物館での窃盗
 今年の9月と10月だけでも、フランスでは複数の美術・博物館が被害に遭っている。リモージュのアドリアン・デュブシェ国立博物館では9月3日の夜、国宝指定を受けた中国製陶器3点が盗まれ、被害額は650万ユーロとされた。また、9月15~16日の夜には、パリ国立自然史博物館の鉱物学ギャラリーから天然の金塊が盗まれた。これらの金塊は18〜20世紀に各地で発掘されたもので、総量は約6キロ。当初の評価は約60万ユーロだったが、その後、検察は損害を約150万ユーロと説明した。

 10月7日には、ミアレのデゼール博物館でユグノーの十字架などが盗まれ、サランのジャック・シラク博物館には10月半ばに2度も強盗が入り、外国の首脳からシラク元大統領に贈られた腕時計や貴金属などが盗まれた。さらに、10月19~20日の夜には、ラングルのリュミエール・ドゥニ・ディドロ館で金銀細工のオブジェが盗まれた

◆解体して転売される盗品
 フランス内務省の組織犯罪に関する情報・諜報・戦略分析局(SIRASCO)は、10月28日付の報告書で、近年強盗被害が増加している施設として、美術館や博物館に加え、教会を挙げた(シュッド・ウェスト紙)。

 狙われやすいのは貴金属や宝石。それ自体の価値を尊重する場合はそのまま売られるが、解体して特定不能な形にして転売されることも多い。宝石は削る、金属は溶かす、といった手口だ。自然史博物館の事件でも、容疑者の一人が10月21日にバルセロナで逮捕され、「約1キロの鋳造金を所持」との報道がある。

 またヨーロッパ全体では、中国製陶器の骨董が狙われる事例が増えており、陶器を割って量り売りにする実態も指摘されている

 こうした窃盗の背後には、転売のあっせん(故買)ルートが不可欠だ。そのため、「故買人がいなければ窃盗は起きなかった可能性がある」との指摘も報じられている

◆教会での盗み、フランスでは3年で約30%増
 フランス・アンフォによると、フランス北東部では、6月から10月の間に約30件の典礼用具の窃盗が記録された。一方、西部では、信徒の献金箱がグラインダーで切断された教会もあれば、モルビアン県のように月に2度盗みが入った教会もあり、南部では18世紀の鐘が盗み出された。今年初めから10月半ばの時点で、教会における典礼用具の窃盗は538件と、前年比で11%増加した。3年前と比べ約30%増加した。

 ルーヴル美術館の事件は同館の防犯の課題を露呈したが、教会も体制が脆弱だ。警備員常駐はまれで、無人の教会も少なくない。一方で、聖杯や聖体容器、聖遺物などは故買市場で人気が高まっており、教会が格好の標的になっているとの報道が相次ぐ。

 なお、この傾向はフランスだけではない。スイスでも教会の窃盗が複数確認されている

Text by 冠ゆき