韓国原潜「産業統合」型は実現可能か 米造船所・投資・規制の三重課題
韓国海軍の潜水艦|Yeongsik Im / Shutterstock.com
アメリカのトランプ大統領は米東部時間10月29日(日本時間30日)、韓国の原子力潜水艦取得計画を「承認した」と表明し、少なくとも一部の艦をアメリカ国内で建造する可能性に言及した。フィラデルフィアの造船所を候補に挙げたが、建造体制や技術移転の詳細は今後の交渉に委ねられる。
◆ハンファの米ヤード事情
原潜建造候補地のハンファ・フィラデルフィア造船所(Hanwha Philly Shipyard)は、韓国のハンファグループが2024年に約1億ドルで買収した造船所で、2025年に50億ドル規模のインフラ投資計画を発表している。一方で潜水艦・原子力艦の建造実績はなく、原子力攻撃型潜水艦(SSN)新造に必要な建屋・治具・原子力関連資格の整備が前提となる点は、米軍事専門誌『ウォー・ゾーン』も指摘している。
アメリカ海軍はコロンビア級・バージニア級の建造が重なるなか、能力逼迫が指摘され、民間ヤード活用にはキャパ拡大の狙いがある一方、潜水艦特有の品質・機密要件のハードルがある。
韓国はアメリカとの通商合意に合わせ、総額3500億ドル規模の対米投資を打ち出している。うち1500億ドルは「Make America Shipbuilding Great Again(MASGA)」としてアメリカの造船産業の能力拡充に振り向け、残余は半導体などの戦略分野に活用する構想だ(資金は現金のほか、融資・保証を含む)。
◆ AUKUSとは「逆の構造」
今回の韓国案は、オーストラリアがAUKUSで米英の技術・艦供給に依存する「受領型」と対照的に、アメリカ国内の造船能力を米韓で共同拡張する「産業統合」型とみられる。米韓の供給網を相互補完で結び、長期の相互依存を高める狙いがあると豪ローウィー研究所などは分析する。
◆123協定と燃料問題
韓国は2015年の米韓原子力協力(123)協定により、ウラン濃縮や使用済み燃料の再処理にはアメリカ側の事前同意が必要で、原則として単独では行えない。今回の動きで、この枠組みの見直し協議に入る可能性が議論されている。燃料の調達方式(高・低濃縮、供給国・保証措置)も主要論点だ。
◆軍拡競争・核拡散への懸念
現在、原子力潜水艦を運用する国はすべて核兵器保有国であり、例外的な将来ケースとしてAUKUS協定を通じて原子力潜水艦を入手予定のオーストラリアがある。韓国の導入は同盟の負担軽減や遠洋運用の強化に資する一方、拡散管理や地域安定への波及が注視点となる。
ドイツの国際公共放送ドイチェ・ウェレ(DW)は、韓国による原子力潜水艦導入の背景に東アジアの軍拡競争があると報じる。ソウルの国民大学のアンドレイ・ランコフ教授は同局に対し、トランプ大統領が同盟国を「寄生的」と繰り返し批判するなか、韓国や日本では「アメリカの安全保障関与への不安が高まっている」と指摘。こうした流れのなかで「韓国が軍事力を劇的に増強し、場合によっては核武装する可能性がある」と述べた。
DWは、北朝鮮もロシアからの技術支援があったとの観測があるなかで、独自の原子力潜水艦を模索していると報じた。韓国との間で軍拡競争が加速するおそれがある。同局によると、中国外務省の報道官は韓国の原子力潜水艦計画について、「韓国とアメリカが核不拡散義務を誠実に履行し、地域の平和と安定を促進する行動を取ることを望む」と牽制(けんせい)した。




