「後ろ歩き」で脳と体を刺激 専門家が教える、驚きの効果と簡単な始め方

buritora / Shutterstock.com

 専門家によると、ウォーキングの習慣を簡単に変える方法がある。後ろ向きに歩くことだ。

 早足で歩くことは、手軽にできる運動で、骨や筋肉の強化、心臓血管の健康維持、ストレス解消など、心身に目覚ましい効果をもたらす。しかし、どんな運動でもそうだが、健康のために足を踏み出すことは、しばらくすると単調で退屈に感じられるかもしれない。

 後ろ歩きは、レトロウォーキングまたはリバースウォーキングとも呼ばれ、安全に行えば、運動習慣に変化と価値をもたらす可能性がある。方向転換は、景色が変わるだけでなく、体にも異なる要求を課すことになる。

 ネバダ大学ラスベガス校の生体力学者で教員でもあるジャネット・デュフェクは、怪我の予防と身体能力の向上の方法を見つけるため、歩行とジャンプからの着地の両方の力学を研究してきた。元大学バスケットボール選手であり、日頃から運動をしている彼女は、後ろ歩きもかなりの回数こなしている。

 人間にとって、後ろ向きの動作は、ハムストリング(太ももの裏側の筋肉)の柔軟性を高め、あまり使われていない筋肉を強化し、体が新しい動きと姿勢に適応する中で心に刺激を与えることができる。

 「近所でたくさんの人が歩いているのを見かけます。それは良いことです」と彼女は言う。「だけど、彼らは何度も何度も同じ体の部位に負荷をかけています。後ろ歩きは、クロストレーニングの要素、つまり微妙に異なる活動を取り入れることになります」

◆ランニングマシンでの後ろ歩き
 テネシー州ナッシュビルにいるパーソナルトレーナーのケビン・パターソンは、後ろ歩きをするのに最も安全な場所としてランニングマシン(トレッドミル)を推奨している。遅い速度に設定できるからだ。しかし、パターソンはランニングマシンの電源を切る(「デッドミル」と呼ばれる)のを好み、クライアントに自力でベルトを動かさせる。

 「ランニングマシンを動かし始めるのに少し時間がかかることもありますが、そこから私たちはクライアントにランニングマシンの馬力になってもらうんです」と言う。

 パターソンは、後ろ歩きをすべてのクライアントに「補助運動」(特定の筋肉群を鍛えるために設計された追加の動きを指すウェイトトレーニング用語)として、またはウォーミングアップ中に使用しているという。この運動がワークアウト全体に占める割合は通常、小さいとのことだ。

 「ランニングマシンは高齢のクライアントに最適なんです。側面にハンドルがあり、転倒のリスクを減らせますから」と述べる。

◆ランニングマシン以外での後ろ歩き
 デュフェクは、10分間のウォーキングに1分間の後ろ歩きを組み込むことから始め、慣れてきたら時間と距離を増やすことを提案している。

 パートナーと一緒に行うこともできる。互いに向き合い、手をつないでもいい。一人が後ろ向きに歩き、もう一人が前向きに歩いて問題がないか見張る。その後、役割を交代する。

 「最初は、本当に、本当にゆっくりと始めます。バランスの適応が必要で、脳の再訓練もあるからです。新しいスキルを学んでいるんです」とデュフェクは言う。「異なる方法で筋肉を使っていることになります」

 もし運動量を上げて、後ろ歩きが本当に得意になったら、後退しながらマラソン(42.2キロメートル)に挑戦することもできる。実際、それを成し遂げた人もいる。

◆クロストレーニングとしての後ろ歩き
 デュフェクは後ろ歩きを、フィットネスプログラムにさまざまな動きを取り入れるクロストレーニングの一形態に分類している。さまざまな種類の運動をすることで、同じ筋肉群を繰り返し使用した後に起こりうる使いすぎによる怪我を防ぐのに役立つ。

 多くの人にとって、クロストレーニングとは、ある日はランニング、次の日は水泳、そして三日目は筋力トレーニングといった具合に、異なる活動や種類の運動を組み合わせることだ。だが、後ろ歩きに必要な動作の微細な(ミクロな)修正も、同じように(クロストレーニングとして)作用する。

 ちょっとした工夫が、そんなに違いを生むのか? 熱心なランナーだったデュフェクは、ランニングシューズを何足も持っていて、2日続けて同じ靴を履くことはなかったという。

 「靴によって摩耗のレベルやデザインが異なっていました」と彼女は言う。「この一つの要素、この場合はフットウェアを変えるだけで、システムにわずかに異なる負荷をかけることができました」

◆リハビリとしての後ろ歩き
 理学療法士は、膝の怪我の後や、リハビリ中、手術から回復中の人々に、後ろ歩きを指導することがある。これは非常に有用だ。

 「後ろ歩きは、力の観点からも、動作パターンの観点からも、前進歩行とは大きく異なります」とデュフェクは説明する。かかとから着地する代わりに、「前足部から着地し、多くの場合非常に優しく、かかとが地面に接触しないことも多いです」

 「これにより、膝関節の可動域が減り、(膝)関節に負荷をかけずに活動できるようになります」と述べる。

 後ろ歩きは、太ももの裏側にある筋肉群であるハムストリングを伸ばす効果もある。デュフェクは、後ろ歩きが体のより多くの感覚を活性化することで、高齢者のバランスを改善し、転倒のリスクを減らすかどうかを突き止めたいと考えている。

◆アスリートは自然に行っている
 後ろ歩きは、決して不自然なことではない。実際、後ろ向きに走ることは、トップアスリートにとって重要なスキルだ。

 バスケットボール選手も行う。サッカー選手もそうだ。アメリカンフットボールの選手、特にディフェンスの選手は、絶えず後ろ向きに動いている。

 「私はバスケットボールをしていましたが、おそらくプレー時間の40%はディフェンスをして、後ろ向きに走っていたと思います」とデュフェクは語った。

By STEPHEN WADE AP Sports Writer

Text by AP