スイスの中学校の地図帳、「日本海」と「東海」を併記 ドイツ語圏でも広がり

Satomi Iwasawa

 本州をはさんで、太平洋の反対側に位置する海は「日本海」だ。日本人にとっても、世界の多くの人にとっても当然のことだが、北朝鮮と韓国では違う名前で呼んでいる。20年来、この2つの国が「日本海」という名前を変更するように国際社会に提起してきた「日本海呼称問題」に、近年、微妙な動きが見られる。韓国が主張する「東海」を使った地図や、メディアが現れているのだ。

◆スイスが2017年改定地図に「東海」
 産経新聞(8月4日)によれば、アメリカの雑誌『ナショナル・ジオグラフィック』やヤフー、イギリスのBBCなどが、「日本海」のみの表記から、「日本海」と「東海」の併記に変更しているという。外国人も含め会員総数15万人の韓国の民間団体が、世界中で精力的に名称変更運動を行っている成果だとしている。

 日本ではほとんど知られていないが、この併記の動きはドイツ語圏でも見られる。スイス(国の6割がドイツ語圏)の中学校で使われている地図帳が5年の編集期間を経て、2017年度 (2017年秋始業)から写真の改定版になった。そこに、初めて「日本海」と「東海」が併記された。詳しく言えば、下のようにJapanisches Meer(日本海)と書いたあとに、oder(または)という語でつないで、Koreanisches(朝鮮・韓国の)と括弧書きにした上でOstmeer(東海)と表記していている。「朝鮮・韓国の」を意味するKoreanischesも記載したのは、北朝鮮が「朝鮮東海」と呼んでいることを考慮したためだ。

 この地図は、スイスの州教育委員会代表会議が1910年に発行して以来、改定を重ねてきた。編集は、スイス連邦工科大学チューリッヒ校の地理の専門家チームが行った。

 出版前、編集長のロレンツ・フルニ氏(地図製作者)に在スイスの日本大使館と韓国大使館から連絡があったという。日本側は「日本海」とだけ記載してほしい、韓国側は「東海」のみにしてほしいという旨だったそうだ。併記にしたのは、考慮の末の折衷案だった。一般誌ターゲス・アンツァイガーのインタビュー(7月1日)で、フルニ氏は併記にした理由を次のように語っている。「両大使館に丁寧な手紙を書いて、私たちの見解を述べました。このテーマについて子どもたちも考えることができるように、世界を平衡に示したかったからですと」。争いになった場合、フルニ氏はスイスの外務省のガイドラインに従うという。

 ひょっとしたら、編集チームのもとへ、上記の民間団体からも働きかけがあったのかもしれない。スイスの公的な機関(州教育委員会代表会議)が併記を認めたことは驚きである。

◆ドイツとオーストリアでも併記が広がる
 ほかのドイツ語圏の学校地図帳はどうだろうか。ウィーン大学の韓国・朝鮮研究者ライネール・ドルメルス教授が調べて、2011年に論文を発表している。

 結果は、ドイツとオーストリアの学校で使われている地図帳では、多くが併記のスタイルを取っていた。下の表は、ドイツでの表記の仕方を示したものだ。オーストリアでも、3つの出版社Westermann、Hölzel、freytag & berndtが、Japanisches Meer(Ostmeer)(東海が小さめの文字)もしくは、Japanisches Meer / Ostmeerと併記していた。

 併記している例がこれほどあると、今後、「東海」を表記する国がさらに増えてくるかもしれない。

学校向け地図帳(複数の種類)を出版しているドイツの出版社4社
(上述の論文から一部抜粋)

Text by 岩澤 里美