自分にやさしくする――心身の健康にもたらす3つの効果

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著:Jennifer DonnellyRCSI医学・健康科学大学、Doctoral Researcher、Meditation-based Interventions in Clinical Settings、Centre of Positive Health Sciences)

 「自分にやさしくしよう」は、困難な時やストレスの瞬間に人にしばしば向けられる助言だ。しかし、向上心が強い人、完璧主義者、あるいはプレッシャーに直面している人にとっては、セルフ・コンパッション(自己への思いやり)という考え方は居心地が悪く感じられることがある。彼らには、やさしさは自分を甘やかして責任から逃れることのように感じられるかもしれない。

 しかし、恥や自己批判の感情が持続すると、身体のストレス反応が身体的な危険と同じくらい強く作動することが研究で示されている。これによりコルチゾールと炎症が増加し、どちらも長期的な健康問題に結びつく。

 これとは逆に、心理学で「セルフ・コンパッション」と呼ばれる自分へのやさしさは、心身をすり減らすことなく、モチベーション、責任感、レジリエンス(回復力)を実際に支えることができる、と研究は示唆している。

 セルフ・コンパッションとは、今起きていることについて、やさしさとマインドフルでバランスの取れた視点をもって自分自身を見つめる能力と定義できる。これは、自分自身を批判したり、自分の失敗に固執したり、「この経験をしているのは自分一人だ」と感じたりすることとは対照的だ。

 セルフ・コンパッションの主な構成要素には、マインドフルな気づき(否認や誇張をせずに、自分の痛みや困難に気づくこと)、自己へのやさしさ(批判ではなく支援を提供すること)、人としての共通性(誰もがときに苦しみ、不完全さは人間であることの一部だと思い出すこと)が含まれる。

 セルフ・コンパッションは、自分を甘やかすことを意味しない。現実的で健全な変化をサポートするかたちで自分自身とつながり続けることを意味する。

 しかし、セルフ・コンパッションを実践するのは、往々にして口で言うほど簡単ではない。もしあなたが、自分にやさしくすることが難しいと感じる人なら、以下に紹介する、セルフ・コンパッションを高めることで得られる三つのメリットと、日常生活でセルフ・コンパッションを高める方法が役立つはずだ。

◆1. 身体のストレス反応を減らす
 ストレスは生活における自然な一部で、私たちの身体はそれに対処するようにうまく適応している。ストレスがあるおかげで、私たちは日々の作業をこなし、より積極的に物事に取り組むことができる。しかし、絶え間なくストレスにさらされ、解消されない状態が続くと、慢性的なストレスにつながりかねない。これは、心血管疾患免疫力の低下うつ病などの精神的な健康問題を含む、心身両面の健康問題を引き起こす可能性がある。

 この慢性的なストレスへの暴露を減らすには、脳の副交感神経系を働かせる必要がある。これは、身体をリラックスさせるのを助け、消化や呼吸などの機能も制御する神経系の一部だ。副交感神経系は、しばしばリラクゼーションや、安全・安心・快適であるという感情によって刺激される。

 セルフ・コンパッションは、この内部システムを刺激するために必要な、自分の中に安心感や快適さを生み出すのに役立つ強力な手段になりうる。研究によると、自己への思いやりのある思考は、心拍変動の改善などの生理学的変化をもたらすことが示唆されている。心拍変動は、感情の調整力と回復力を示す指標だ。

◆2. フィードバックへの対応と適応を助ける
 多くの人は、セルフ・コンパッションが強すぎると、自己中心的になったり、責任を回避したりすることになるのではないかと恐れている。しかし、セルフ・コンパッションを実践すると、私たちはかえって他者に対してより心の余裕をもって接することができるようになる。

 私たちは、より健全な対処戦略を実践し、フィードバックにより良く対応し、挫折からより速く回復することができるのだ。

 これは、セルフ・コンパッションが、他者にかけるのと同じ配慮をもって自分自身に対応することを教えてくれるからだ。「自分はダメだ」と言う代わりに、セルフ・コンパッションのある人は、「これは難しかった。次回のために何を学べるだろう?」と言うかもしれない。

 さらに良いことに、私たちが自身の不完全さや失敗に対して共感を示すようになると、その共感を他者に対しても広げやすくなる。

◆3. 成功の可能性を高める
 セルフ・コンパッションを実践すると、怠けたり、向上心を失ったりするのではないか、という不安もよくある。しかし、研究はその逆が真実であることを示している。

 セルフ・コンパッションを実践する人は、自分の行動に責任を持ち、失敗した後も再挑戦し、長期的な目標に継続的に取り組む可能性が高い。彼らは先延ばしにすることが少なくなり、より良心的で、衝動的ではない決断を行いやすい。

 対照的に、羞恥心や否定的な自己評価は短期的なパフォーマンスを促すかもしれないが、そのモチベーションを長期にわたって維持できる可能性は低い

◆セルフ・コンパッションの実践法
 セルフ・コンパッションを試したいなら、自分が厳しい自己批判のループに陥っていることに気づいたとき、一度立ち止まり、「もし大切な人がこの状況にいたら、私はその人に何と言うだろうか?」と自問してみる。そして、その言葉を自分自身にかけてみる。

 そして、中立的で非批判的な言葉を使うこと。「こんな風に感じてはいけない」「また失敗した」のような言い方ではなく、自分の考えを個人的なものにしすぎないように努める。「これは難しい」「こんな風に感じるのは自分だけではない」と自分に言ってみるのもよい。さらに前向きに、「今の私の状況はこうだ。次に何ができるだろう?」と自問してみることもできる。このような小さな変化は、感情的な反応性を減らし、プレッシャーの下でのより明確な思考をサポートする助けとなる。

 最後に、大局的に見ることだ。私たちは困難の中で孤独だと感じやすい。しかし、文化、背景、性格に関係なく、誰もが疑念、後悔、あるいは不完全さを経験している。完璧な人間はいないこと、そして誰にでもつらい日があることを自分に思い出させよう。あなたは一人ではない。

 慈悲の瞑想のような実践も、セルフ・コンパッションを育むのに役立つ。この瞑想では、自分自身や他者に、良い願いややさしい思考を送ることに焦点を当てる。

 病気、慢性的なストレス、あるいは日々の生活のプレッシャーと闘っている場合でも、自分にやさしくすることは甘やかしではない。それは、あなたの健康、心、そして未来の自分を守るスキルなのだ。

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by NewSphere newsroom

The Conversation

Text by Jennifer Donnelly