チョコレート高騰で問われる産業構造 UNDP、産地主導への転換提唱

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 カカオの生産減によって価格が高騰し、チョコレート製品の値上がりが世界各地で進んでいる。異常気象や病害に見舞われるアフリカの主産地が直接の要因とされる一方、多国籍企業が支配する産業構造そのものが安定供給を妨げているとの指摘もある。

◆カカオ不足が深刻化 チョコレート価格に波及
 2023/24収穫年度は、世界のカカオ生産量が前年度比で約13%減となり、供給不足は47万8000トンに達した。過去60年で最大の不足幅だ。欧州連合(EU)では5月時点でチョコレートの価格が平均21.1%上昇。カカオ価格の高騰が前例のないチョコレート価格のインフレにつながり、メーカーは利益確保の圧力に直面している。(ユーロニュース

 ガーディアン紙によると、イギリスの店頭価格は8月までの1年間で15.4%上昇し、食品インフレ率を18か月ぶりに5%台へ押し上げる一因となった。業界団体のカレン・ベッツ最高経営責任者は、コスト高を企業だけでは吸収できず、一部を消費者に転嫁せざるを得ないと説明する。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、値上げが需要を冷やし、売上減につながっていると報じている。

◆不作だけが問題ではない 産業構造のゆがみ
 世界の供給の約60%を占めるガーナとコートジボワールでの不作が生産減の主な要因だ。病害や悪天候の影響で、カカオ価格は2023年8月以降に2倍超へ上昇している(ガーディアン)。

 しかし国連開発計画(UNDP)は、背景により深刻な構造問題があると指摘する。欧米の需要に応えるための熱帯雨林の伐採など環境面の問題に加え、児童労働や農家の深刻な貧困といった社会経済的課題が状況を悪化させているという。

 UNDPは持続可能な農業を後押しする一方で、産地国内で加工・製造まで行える体制づくりが不可欠だとする。UNDPコートジボワールのカカオ・森林分野の専門家、ジャン・ポール・アカ氏は、粉砕や焙煎といった初期加工は比較的単純で、産地でも実施可能だと述べる。ところが実際には、生豆を買い付けた多国籍企業が欧米で加工し、大手ブランドへ供給する構図が続き、市場支配の維持が産地の産業発展を阻んできた。カカオの50%を現地加工できれば数千人規模の雇用が生まれ、農家所得の向上と貧困の軽減につながるという。適切な政策と投資が整えば、アフリカ製チョコレートの本格展開も可能で、結果として世界の安定供給にも寄与するとの見方だ。

◆「安さ一辺倒」の限界 長期投資で強い供給網へ
 オランダのチョコレートメーカー、トニーズ・チョコロンリーのダグラス・ラモント氏は、カカオ先物が過去の低水準まで戻る可能性は低いものの、今後数年で下落に向かうとの見立てを示す(FT)。英高級チョコレート・カフェ「クヌープス」の創業者イェンヌ・クヌープ氏も、需要減と生産の持ち直しを踏まえ、今年は供給過多になる可能性があると述べている(ガーディアン)。

 ラモント氏は、価格が落ち着いた局面で、メーカーは短期の利益最大化か、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化かの選択を迫られると指摘する。同氏は自社の調達原則を踏まえ、追加収入は農家の賃上げや生産性向上、児童労働の解消に振り向けるべきだと主張。目先のコスト圧縮ではなく、長期視点の投資こそが業界全体の利益につながると強調している(FT)。

Text by 山川 真智子