テスラはクルマから降りるのか マスク新戦略に「危険信号」の声
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8月、テスラ車のアメリカの電気自動車(EV)市場シェアが2017年以来はじめて40%を下回った。車種ラインナップの少なさと競合の攻勢が響いた形だ。さらに、最高経営責任者(CEO)のマスク氏は自動車よりも人工知能(AI)やロボットへ比重を移しつつあるとみられ、EV時代を切り開いたテスラは転換期を迎えている。
◆新モデル不在で鮮度低下、販売減少が深刻化
テスラはかつて同市場で80%のシェアを誇ったが、ロイターによると、8月は38%に低下。量産初号車「モデル3」を増産していた2017年10月以来、初めて40%を割り込んだ。
アナリストは、頻繁なソフトウェア更新にもかかわらず、ラインナップの鮮度が落ちていることがシェア低下の要因だとみる。実際、販売の主力はセダン「モデル3」とクロスオーバーSUV「モデルY」の2車種で、改良も小幅にとどまる。
一方、競合は新型EVを相次ぎ投入。ゼネラル・モーターズのEV販売は1〜7月で前年同期比「2倍超」に増え、業界では「新製品は売れる」という不変の法則が改めて確認された。選択肢の急拡大はテスラの販売減少につながっている。
連邦政府のEV税額控除が月末で失効(フェーズアウト)するとの観測から駆け込み需要が続き、市場全体は伸びている。在庫逼迫が進めばテスラも一時的にシェアを取り戻す余地はあるものの、マスク氏自身が既存の販売拡大に限界を自覚しているとの見方は根強い。アクシオスは「業界の他企業が追いついた今、同氏は他の分野に目を向けている」と伝えている。
◆「ロボットで企業価値の約8割」 マスク氏の新計画
テスラは1日、戦略文書「マスタープラン パートIV」を公表した。新型EVへの具体的な言及は見当たらず、焦点は人型ロボット「オプティマス」とロボットタクシー(ロボタクシー)など、AIの「実世界実装」に置かれている。アトランティック誌は、この計画はアメリカ最大のEV企業であるテスラが「自動車製造からの撤退」を望んでいることを示すと指摘した。
マスク氏はX(旧ツイッター)で「テスラの価値の約8割はオプティマス」と述べた。
さらに、取締役会は数百万規模のロボット/ロボタクシー展開などの達成を条件とする「最大1兆ドル」相当の新たな報酬案を提示。アトランティック誌は、この案がマスク氏にロボットへ「オールイン」する強い誘因を与えると論じた(案は提案段階で、最終実施には株主承認が必要)。
この流れを受け、アナリストからは「自動運転分野を除く現行製品への投資は最小限にとどまる」との見立ても出ている。
◆新領域では先行組が優勢、EV縮小は危うい賭け
ロボタクシーでは、テスラがアメリカ国内「2都市」(オースティンとサンフランシスコ)での試験運行段階であるのに対し、アルファベット傘下のウェイモは「5都市規模」でサービスを展開し、さらに拡大中だ。
中国では百度(バイドゥ)の「アポロ・ゴー」が11都市以上で運用され、アラブ首長国連邦(ドバイ)など国外進出も報じられている。
人型ロボットでも、ユニツリー、ボストン・ダイナミクス、フィギュアなどが次々と成果を発表。対してテスラのオプティマスは実績が乏しく、遅延やリーダー退任の報も出るなど難航が指摘されている。
自動車製造という収益源を細らせてAIへ“全振り”する戦略に、投資情報サイトは「危険信号」と警鐘を鳴らす。アトランティック誌も、今回のマスタープランは道筋が曖昧で、もし構想が頓挫すればテスラに残るものは少ないと論じた。




