ダークエンパス:共感を武器に人を操る 特徴と見分け方
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共感的に見えながら、実は相手を支配しようとする人びとがいる。2021年にイギリスの研究チームが報告した「ダークエンパス」と呼ばれるタイプだ。
◆調査対象の2割近くが「ダークエンパス」
英ノッティンガム・トレント大学のナジャ・ヘイム准教授らは2021年、約1000人を対象にした調査で、新たな心理学的構成概念を提案した。ナルシシズム、マキャベリズム、サイコパシーという「ダークトライアド」の人格特性を持ちながら、同時に高い共感力も併せ持つ人びとを指す。対象者のうち19.3%(175人)が該当し、研究チームは彼らを「ダークエンパス」と名付けた。
このタイプは共感の使い方に特徴がある。情動的共感(相手の感情を自分も感じる側面)と認知的共感(相手の考えや状態を理解する側面)の双方が相対的に高く、その理解力を自己の目的の推進に用いるとされる。
◆上司や恋人がダークエンパスかも
ダークエンパスは、親密さが増すほど本性を見せやすい。信頼させて相手の弱みを握り、そこで支配性が露わになるのが手口だ。英ガーディアン紙はその典型例として、職場と恋愛における二つの事例を紹介している。
イベント会社で働くヤスミンは、上司エレインと信頼関係を築いていた。エレインは職場を社交的な場にし、自ら悩みを打ち明けることで部下を打ち解けさせ、ヤスミンも不妊治療の苦悩を相談するようになった。しかしその裏で、エレインは体調不良を理由に追加業務を押し付け、昇進の可能性をほのめかす一方で「家庭よりキャリアを優先すべきだ」と妊娠を思いとどまらせようとした。数か月後、ヤスミンが妊娠を伝えると、エレインは激しく反発。会議から排除し、昇進の機会も奪ったため、ヤスミンは出産前に部署を異動した。
恋愛でも同様のパターンがみられる。ランニングクラブで知り合ったショーナは、イアンから慈善活動やボランティア経験を繰り返し聞かされ、誠実で控えめな人物と信じて交際を始めた。しかし交際が進むにつれ、イアンが複数の女性と同時に関係を持っていることが明らかになり、語っていた善行の多くも事実ではなかった。最終的にショーナが別れを告げると、イアンは激怒したという。
◆専門家が教える見分け方
では、どう見分ければよいのか。英BBCのサイエンス・フォーカス誌でのヘイム氏の解説や、前掲のガーディアン紙の取材記事を参考に、次の点を確認したい。
・親切さや同情が、情報・評判・便宜の獲得と系統的に結びついていないか。予定が崩れた場面などで、こちらに罪悪感を負わせて動かそうとしないか。
・第三者(配達員、店員、運転手など)への態度が場面で冷淡・攻撃的に変わらないか。人を貶める冗談や仲間外れなど、間接的な攻撃が反復していないか。
・一対一の場を過度に好み、個人情報を多く引き出していないか。その情報を後に影響力の行使や噂の拡散に用いていないか。
・慈善や献身を語る一方で、実際の行動が伴わない、あるいは後に誇張・虚偽が判明するなどの不一致がないか。交友関係の選び方に打算が見えないか。
・時間の経過とともに、約束違反や反復的な虚言、社会的排除などの支配的行動が表面化してこないか。疑義を示すと、排除や悪評の流布など報復的な振る舞いに転じないか。
また、言葉づかいにも手がかりがある。心理療法士のシャーロット・フォックス・ウェーバー氏はガーディアン紙に、「与えすぎてしまうのが私の問題なの」など自己犠牲を強調する人や、「みんなには居場所があるのに私だけない」など同情を誘う人には要注意だと語る。
ただし、単一の兆候で決めつけるのは避けたい。時間をかけて観察し、違和感が重なる場合は境界線を明確にし、共有情報を絞り、必要なら距離を置く。それが有効な自衛策だろう。




