中国EV産業の「内巻」深刻化 業界首位BYD減速
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中国の電気自動車(EV)大手、BYDの四半期純利益が3年以上ぶりに減少した。市場シェアをめぐる競争の激化により各社が価格を引き下げており、値下げ競争を主導してきた同社も打撃を受けた形だ。
◆競争過熱 薄利多売で業績低迷
BYDは原材料調達から販売まで一貫して担う垂直統合型の体制を築き、コストを抑えて値下げ余力を確保してきた。数年にわたり中国の自動車業界で価格競争を主導し、急速に販売を拡大してきた。
だが、大幅な値下げの影響で、2025年上半期の粗利益率は、前年同期の18.8%から18%に低下。海外販売は伸びたものの、4〜6月の純利益は前年同期比30%減の64億元(約1330億円)に落ち込んだ。
BYDは声明で、中国の自動車市場は「過度に加熱している」と警鐘を鳴らし、過剰なマーケティング行為が混乱を招いていると指摘した。
BBCによると、EVメーカーは販売店への補助金を支給し、購入者には無利子ローンを提供するなど、業界の競争は一段と激化している。こうした状況を受けて北京当局は警告を発し、経済を守るために自動車メーカーに過度な値引きをやめるよう求めた。業界推計によれば、中国の自動車平均価格は過去2年間で約19%下落している。
◆従来モデル崩れる? 減速は不可避
シンガポールの南洋理工大学のローラ・ウー教授は、BYDの予想外の業績について、業界のリーダーであっても激しい価格競争で必ずしも勝てるわけではないことを示していると指摘する(BBC)。
アナリストの間では、BYDの苦境は販売の伸び鈍化と構造的逆風が重なり、かつての競争優位が薄れたことが原因との見方が多い。規模やコスト削減、技術力を背景にした「安定的に稼ぐ」モデルは減速し、業績不振はしばらく続くとみられる。(ロイター)
一方で、急成長の反動による一時的な減速にすぎないとの指摘もある。会計調査会社GMTリサーチは、深刻な財務リスクは現時点で見られず、むしろ世界的大企業への移行期に伴う成長鈍化は持続性を高める側面もあると分析している(ブルームバーグ)。
◆業界は「内卷」の象徴 再編は不可避か
BYD不振の背後には、業界全体の構造的問題がある。ナショナル・インタレスト誌に寄稿した米外交問題評議会のデビッド・M・ハート氏は、中国のEV産業は中国で使われる言葉「内卷(内巻き=内部での過剰競争)」の典型だと指摘する。
政府支援のもと500社近い企業が参入した結果、値下げ、利益減、過剰生産の悪循環が進み、淘汰や統合は避けられない。ただし政治的要因により「ゾンビ企業」が温存され、再編が思うように進まない可能性もある。
国内販売の伸び悩みを受け、中国のEVメーカーは輸出を急増させ、貿易黒字を拡大している。しかし、過剰分を海外に押し出す戦略は貿易摩擦を誘発し、日米韓や欧州との緊張を高める要因にもなる。ハート氏は「中国にとって内卷は解決困難なジレンマだ」と分析している。




