レンタカーを借りた契約者が店に無断で第三者に転売 「30万円しかもらえず自分も騙された」

@2525r_odwro さんの投稿より

神奈川県小田原市にある「有限会社近藤車体」(@2525r_odwro)で、貸し出したレンタカーが契約者により売却されるという事件が発生しました。

【動画】夫に「レンタカーは盗まれた」とウソの説明 借りた車を第三者に売却

通常の「乗り逃げ」とは異なり、売却目的で借りられた可能性が高い悪質なケースです。

レンタカーを借りた人物が車を第三者に売却

今回レンタカーを借り、売却したのは1人の女性でした。

2025年8月10日朝8時過ぎ、女性は「17日ごろまで車を借りたい」と店に連絡。

店が軽自動車の空き状況を伝えたところ、女性は「遠方に行くので大きめの車がいい」と要望しました。

結果的に三菱エクリプスクロスを14日まで貸し出す契約に。

女性は8時40分ごろ来店し、現金で支払い契約が成立しました。

ところが14日、閉店時間の21時になっても車は返却されません。

電話すると、女性から「岩手にある夫の実家でコロナにかかり18日まで返せそうにない」という説明がありました。

お盆という事情もあり、店は「当初の希望通り17日まで利用するつもりなのだろう」と推測していました。

18日になり再度連絡すると、女性は「貧血で病院にいる」と返答。

店舗は不審に感じましたが、女性の「1週間ほどで返せる」との言葉を受け、様子を見ることにしました。

夫からも連絡するよう伝えるも連絡はなく、24日に再度女性に確認すると「まだ返せない」と回答。

25・26日になっても連絡が取れなかったため、店は26日にSMSで女性に「法的対応を取る」と送信しました。

その約1時間後、警察から連絡が入りました。

女性はレンタカーを盗まれたと主張しているものの、話の内容に矛盾や支離滅裂な点があることから店側にも説明を求めたのです。

女性の自宅が店舗から近かったこともあり、警察立ち会いの元、契約者の女性と夫、店の3者で話し合うことに。

SMSを受け取り焦った女性は当初、夫に「レンタカーは盗まれた」と嘘の説明をしていました。

夫が警察に通報しましたが、警察の質問攻めでのちに女性は売却したことを告白したのです。

夫は女性がレンタカーを借りることは知っていましたが、仕事のために借りたのだろうと考えていたといいます。

女性の自宅に設置されている防犯カメラには、鍵と車を第三者に渡す様子が映っており、売却が事実であることが裏付けられました。

さらに女性は、エクリプスクロス以外にも同様に2台を売却した疑いがあることが判明。

店は女性の親に対し相談したところ、「お金はない」で一蹴。

女性と夫の家庭は経済的に困窮していたといい、警察に対し女性は「売るために借りた」と話しているとのことです。

仮に車が戻ってこなかった場合、店側の被害額は300万円に達するといいます。

警察からは「詐欺罪にあたる」と説明を受けており、現在被害届を出す準備が進められています。

女性は「30万円しか受け取っていない、自分もだまされた」とも主張しているようです。

これまでにも同店では乗り逃げは過去に数回あったものの、いずれも2週間程度で回収できていました。

いずれも物損事故を起こし、免責分を支払うお金がないため放置や延長したはいいが延長料が払えないで放置というパターンだったとのこと。

弁護士の見解は?

今回のようにレンタカーを借りた契約者が第三者に無断で売却した場合、貸した側はどのような法的処置を取ることができるのでしょうか。

NewSphereは、弁護士法人・響の古藤由佳弁護士に見解を聞いてみました。

ーー今回のようにレンタカーを借りた人物が第三者に売却した場合、どのような罪に問われるのでしょうか。

「もともと第三者に売却する意図をもって、車のレンタル契約を締結して車の引渡しを受けたのだとしたら『車を返す』というレンタカー契約において大変重要な事実を偽って、レンタカー屋さんから車という財物の交付を受けたことになるのでレンタカー屋さんに対する詐欺罪(刑法246条1項)が成立します。

この場合の法定刑は、10年以下の拘禁刑で、罰金刑はありません」
 
ーー仮に売却先が仮に海外在住の人物であった場合、被害者はどのような対処をすればいいのでしょうか。

買った人物を罪に問うことはできるのでしょうか。

「転売先の人物が、車が犯罪行為によって取得されたことを全く知らず、知らないことについて過失もない場合でもレンタカー屋さんは、車を失った時から2年間の間は、当該転売先の人物に対して、車の返還請求をすることができます(民法193条)。

転売先が海外在住の人物であり、車がすでに外国にある、という場合には、相手方の特定も極めて困難ですし、輸送費など各費用を考慮すると、よっぽど価値のある車でない限りは、現物の取り戻しは費用倒れになりますし、現実的ではないと思います。

車を購入した人物が、当該自動車が犯罪行為によって取得されたことを認識していたのだとしたら盗品等有償譲受罪(刑法256条2項)が成立し、法定刑は、10年以下の拘禁刑及び50万円以下の罰金です」

ーー上記のように、レンタカーを借りた女性は売却相手に話を持ちかけた際、より高い金額を掲示されていたにもかかわらず実際は想定より少ない金額で売却されたことを知りました。

この場合借りた人物は売却相手を訴えることはできるのでしょうか。

「レンタカーを借りた人と、転売相手間で、中間手数料を考慮した売却価格についてどういう契約になっていたかによりますが、例えば、(あまり想定できないですが)レンタカーを借りた方が転売相手に対してあらかじめ転売手数料の支払いをしておき、転売代金はすべてレンタカーを借りた方に引き渡す、というような合意があったとしてそのうえで、わざと不当に低い金額で売却されたというような事情があったり、車の売買契約書上は低い金額で売却されたことにしておいて、本当の売却代金と契約書上の売却代金の差額を中抜きされているというような事情があるのであれば、レンタカーを借りた方が転売相手に対して損害賠償請求をすることができるのだと思います。

ただ、かなり立証が難しそうだなと思います」

ーー車が戻って来ずに借主が経済的な理由で請求額を返済できない場合、貸主はどういった対処をすればいいのでしょうか。

「悪質な故意行為によって生じた損害賠償請求権は、自己破産によっても免責を受けることができないので(破産法253条1項2号)レンタカーを借りた方は当該損害賠償義務を免れることはできません。

そのうえで、請求した時点でレンタカーを借りた人にお金がない場合は、勤務先の情報や持っている口座情報などを聞いたうえで、公証役場で公正証書を作成し損害賠償金について分割払いの合意をすることが考えられます。

公正証書を作っておくと、将来的に支払いの遅れが生じた場合に、別途訴訟を提起することなく、相手方の給与や口座の差押え(強制執行)手続きを取ることができます」

古藤由佳 弁護士
弁護士法人・響。
「難しい法律の世界をやさしく、わかりやすく」をモットーに、消費者トラブルや交通事故・借金・労働問題・相続・離婚など、民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける。

FM NACK5『島田秀平と古藤由佳のこんな法律知っ手相』にレギュラー出演するほか、

ニュース・情報番組などテレビ・新聞・雑誌等メディア出演も多数。

弁護士法人・響 公式HP:https://hibiki-law.or.jp/
『こんな法律知っ手相』HP:https://hibiki-law.or.jp/radio/

Text by 浅田 一