米海底監視網を無力化へ 中国の巨大水中ドローン「XLUUV」

※画像はイメージ。記事で取り上げた中国のXLUUV実機とは異なる|Volodimir Zozulinskyi / Shutterstock.com

 中国は9月3日の軍事パレードで、巨大水中ドローン「XLUUV」を公開する見通しだ。アメリカの海底監視網を無力化し、太平洋の軍事バランスを揺るがしかねないと懸念されている。

◆戦車運搬車にかろうじて収まる巨大な魚雷
 9月3日に北京で予定されている軍事パレードのリハーサル映像が、中国のソーシャルメディアで出回っている。フランスの軍事専門サイト『ネイバル・ニュース』によると、映像には「AJX002」と白文字で記された水中ドローンが確認できる。全長は18〜20メートル、直径は1〜1.5メートルと推定され、ポンプジェット式の推進機構を備えている。

 同記事はさらに、パレードで公開される可能性のあるもう1種のXLUUVについても報じている。こちらは防水シートで覆われていて詳細は不明だが、AJX002と同程度の長さで直径は約2倍だという。船尾には少なくとも2組のマストがあり、従来の十字型ではなくX字型の舵が採用されている。

 香港の英字紙アジア・タイムズによると、リハーサルではAJX002が少なくとも4機、より大型のモデルが2機、計6機のXLUUVが確認された。

◆日本周辺の米軍監視網を意識
 なぜ中国はこれほど巨大な水中ドローンを必要としているのか。

 複数の研究によれば、アメリカが2000年代半ばまでに構築した固定式音響センサー網「Fish Hook Undersea Defense Line(魚釣り針海底防衛線)」は、鹿児島から沖縄、台湾、フィリピンのバラバク島、インドネシアのロンボク島、さらに北スマトラ、アンダマン諸島へと延び、中国潜水艦の太平洋進出を監視している。アメリカの研究者ライアン・マーティンソンは、この監視網により中国潜水艦は平時でも高い確率で探知され得ると論考で指摘している。また豪シンクタンクASPIの媒体『ザ・ストラテジスト』は、遠隔操作でのケーブル切断、爆発物の設置、音響信号による遅延起動など、XLUUVが米主導の海底監視網を無力化する手段を持ち得ると報じている。

 米外交専門誌ナショナル・インタレストは、アメリカと同盟国が海底に張り巡らせた音響センサー網によって、中国潜水艦の隠密性が大きく損なわれていると指摘する。こうした状況で開発されたXLUUVは、監視網を突破するための「シーベッド・ウォーフェア」の兵器と位置づけられる。ケーブルを切断したり爆発物を設置したりすれば、アメリカ軍の「目と耳」を奪うことになり、地域の安全保障環境を根底から揺るがしかねない。

◆アメリカと異なる開発アプローチ
 中国のXLUUV開発は、その規模と手法で他国を圧倒している。

 ネイバル・ニュースによれば、中国は少なくとも5種類のXLUUVを数年前から試験しており、世界最大規模のプログラムとなっている。南シナ海の三亜や楡林の海軍基地、黄海の大連近海での試験運用も確認されている。

 開発手法はアメリカとは大きく異なる。ナショナル・インタレスト誌によると、アメリカ海軍が航続距離6500海里の「Orca」プログラムで単一設計に注力しているのに対し、中国は複数の試作機を競わせる方式を採用している。この「試作競争方式」によって専門的な役割分担や輸出の機会が生まれ、技術革新が加速しているという。

 大量生産を得意とする中国の産業基盤と競争的な開発アプローチにより、中国は水中ドローン分野で存在感を着実に高めている。今後の展開が注目される。

Text by 青葉やまと