日本の国民皆保険、アメリカのお手本になりえる? メディアで持ち上げられるも

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 アメリカ民主党の議員たちが共同提案者となり、バーニー・サンダース上院議員(無所属)が9月13日、国民皆保険制度を提示した。これは「メディケア・フォー・オール2017」と名付けられ、現存のメディケア(高齢者向けの公的医療保険)を国民全員に拡大しようする案である。

◆賛否両論の「メディケア・フォー・オール2017」
 共和党が主導権を握っている議会でこの案が成立する可能性は極めて低いことに加え、実際にアメリカ国民全員を公的医療保険でカバーしようと思ったらどれだけの額の予算が必要なのか、と考えると、やや実現は難しいことが分かる。

 しかし、サンダース議員を含め共同提案者もそんなことは承知。極端な案を出さないと、共和党の手によってどんどん内容を削減されてしまうのだろう。サンダース議員は大統領選の民主党予備選でも大手保険会社によって運営されている通称「オバマケア」を改良し国が運営すること、そのためには税金は上げなければいけないがプラスマイナスで家計への負担は軽減する、と説いていた。

 この「メディケア・フォー・オール2017」に対しては多くのメディアがそれぞれの立場から意見を述べ、ニュースとして取り上げている。中でも、アイオワ州を拠点とするスペンサー・デイリー・リポーター紙のコリン・ヴァン・ウェステン氏は、この案をオーストラリアのシステムと似ていると書いている。「ワシントンポスト紙によれば、トランプ大統領でさえも、オーストラリアのシステムはアメリカと比べて“より良い”と語っている」という。

 そして、同じく引き合いに出されているのは日本の健康保険制度だ。日本も国が管理するシステムを取っている。ヴァン・ウェステン氏は日本に滞在したことがあるといい、目の当たりにした健康保険制度を大変評価している。確かに、日本の健康保険制度はワールドクラスであり、国民の平均寿命も長い。しかし、日本とアメリカでは、そのまま比べられない“大きく異なる要素”がある。

◆日本の制度、突如としてスポットライトが当たる?
 ブルームバーグ・ビューのコラムニストであるノア・スミス氏は、日本の健康保険のシステムを高く評価し、公的医療と私的医療保険が共存する日本のようなハイブリットシステムを作るという案を紹介している。

 同氏は、先進医療国であり、かつ長寿国でありながら、日本は国民保険によりすべての国民がカバーされているとコラム中で述べ、「もちろん食生活の違いも(アメリカの医療費が高いことの)要因として考えなければならない」としつつ、日本の国民保険が成功している理由はそのハイブリッドシステムにあるとする。しかし、日本のシステムが称賛されるのは誇りに思うべきことではあるのだが、「食生活」というのはスミス氏が考えるほど軽い要因ではなく、医療費を考える際に最も重要な要因の一つではないだろうか。

 日本はアメリカほど人種のるつぼではないため、人種的に罹りやすい疾患の傾向も絞りやすいであろうし、ドラック問題や、多くの疾患の根本原因の一つである肥満に対する問題が非常に少ない傾向にある。肥満問題は多くの場合、ファストフードばかり食べたり糖分を取りすぎたりする食生活に基づくもの、特に、子どもの肥満は現在、国際的に議論される大問題である。

◆求められるのはアメリカ国民に寄り添ったシステム
 健康保険の問題は、一つの法案を通過させ、どこから資金を工面するかだけでは終わらない。多くの要因が複雑に絡み合い、完璧な解決法は存在しないであろう問題だからこそ、他国の真似をしてもそこに軋みが生じるのだ。アメリカ国民のためのアメリカらしいシステムを採用しなければ、政権が変わった時にまたテコ入れが入るだろう。結局振り回されるのは、自分では私的保険を購入できない貧困層や低・中間所得層なのだ。

 今回のサンダース議員の国民皆保険の草案の欠点を共和党側がうまく叩くことでアメリカ国民が落ち着いて利益を享受できるシステムを作り上げて欲しいものだ。

Text by 西尾裕美