自分を許せない人、許した人の違いは? 心理学が示す“前に進む”ヒント

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 夜、ふと布団に入ったとき、「あのとき、もっと違う選択をしていれば……」「どうしてあんなことをしてしまったんだろう」などと昔の失敗が頭をよぎることはないだろうか。過去の後悔は時に何年も心に居座り、「いまの自分」を縛りつけることがある。一方で、似たような過ちをしても、うまく自分を許し、前に進んでいける人もいる。

 この違いはどこから生まれるのか。なぜある人は「許せる人」になり、別の人は「許せない人」として苦しみ続けるのか。オーストラリアの研究チームが行った調査は、その違いを浮き彫りにした。研究成果は心理学誌セルフ・アンド・アイデンティティに掲載された。

◆自分を許せる人と許せない人の分かれ目
 調査では、過去に過ちを犯した80人のアメリカ人の体験を詳細に分析した。すると、「許せる人」と「許せない人」にはいくつかの特徴的な違いがあることが明らかになった。

 許せない人は、過去の出来事を「昨日のことのように」鮮明に思い出し、現在の自分をその過去に縛りつけてしまう。ある女性は、娘がいじめに遭った経験について「まるで昨日のことのように、まだ生々しく感じる。娘を転校させてからもう4年経つのに」と語った。別の男性も「20年も前のことなのに、まだひどくつらい」と告白している。一方で、許せる人は過去を切り離し、「これからどう生きるか」という未来に目を向けていた。「自分を許さなければ前に進めないと思った」と語った若い女性の言葉に、その姿勢が表れている。

 また、「あの時は自分にどうしようもなかった」という無力感が強い人ほど自己非難から抜け出せない傾向にあった。酔った友人を止められず事故を招いた男性は「もっと強く止めていれば事故は防げた。結局自分のせいだ」と繰り返し自分を責めていた。逆に「自分が選んだことだったと受け止めた時、ようやく前に進めた」と振り返る人もいた。主体的に捉え直せるかどうかが、大きな分かれ目となる。

 さらに、自分の過ちが「人間としての価値を壊してしまった」と感じると、赦しは難しくなる。婚約中に酔って浮気をしてしまった女性は「私はそんなことをする人間じゃないはずだった。今でも自分を許せない」と語った。一方で「昔の未熟な自分を許すことで、今の自分を受け入れられるようになった」と話す参加者もいた。

 そして、感情の扱い方にも違いがある。負の感情を押し殺そうとする人は苦しみを長引かせる。ある男性は「必死に働き、ゲームに没頭した。気を紛らわせるしかなかったが、結局苦しみは消えなかった」と振り返っている。一方で「何日も自分の心と格闘した。過去を変えられないと受け入れた時、ようやく心が軽くなった」と語る女性もいた。「友人に話し、違う視点をもらえたことで救われた」と語る人もいた。

◆「赦せない人」ができる工夫
 もし自分が「許せない側」にいると感じるなら、研究の知見はヒントになる。過去の自分と今の自分を切り分けること。小さな選択を積み重ねて主体感を取り戻すこと。「失敗しても自分の価値は変わらない」と捉え直すこと。そして感情を押し込めず、外に出していくことだ。

 また、特定の状況によって自己赦しが難しくなるケースもある。育児や介護を担う人は「相手に迷惑をかけた」と自分を過剰に責めがちだが、完璧でなくても支えている事実は変わらない。被害を受けた経験を持つ人は「自分のせいではない」と気づくことが、回復の第一歩になる。

◆過去を忘れるのではなく、未来に歩むために
 赦しとは、過去をなかったことにすることではない。むしろ、過去を抱えたまま未来へ進むための力だ。

 自分を許せない気持ちは、多くの人が持ち得る普遍的なテーマだろう。この研究が示す「許せる人の特徴」と参加者の声は、いま苦しんでいる人にとって、少しでも前へ進むための手がかりになるはずだ。

Text by 白石千尋